2007 Fiscal Year Annual Research Report
業績報告プロジェクトにみるディスクロージャーの透明性と会計情報の質
Project/Area Number |
18730297
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
中村 美保 Oita University, 経済学部, 准教授 (60381026)
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Keywords | 業績報告 / 包括利益 / 利益制御 / 実質的会計政策 |
Research Abstract |
本年度は、業績報告の改革をめぐる議論の争点の1つである包括利益の開示について、経営者による利益制御(earnings management)という観点から分析・研究を行った。 まず当該研究の背景である。各国の会計基準設定主体が業績報告の改革を行う目的はいくつかあるが、その1つは、経営者による利益制御に関わる問題である。より具体的にいえば、その他包括利益とよばれる未実現損益を経営者の都合のよい時期に実現させることによって、実現利益である当期純利益をコントロールし、業績をよく見せようとする動機が働くことがあるというものである。包括利益の開示では、その他包括利益を開示することにより開示の透明性を向上させることで、こうした経営者の裁量を抑えようという目的がある。当該研究では、1995〜2007年の間において、包括利益の開示導入前後で、その他包括利益を利用した経営者の裁量的行動(とくに有価証券の売却行動)に変化が見られるのかどうかを分析した。 結果としては、包括利益の開示の適用直後の期間ではその他有価証券等に関する利益制御の変化は顕著ではないが、近年においては統計的に有意な減少が確認できた。このことから、開示の適用効果については、適用直後の期間ではそれほど効果がなく、適用後しばらく経てから現れたと考えられた。すなわち、制度化の目的の1つである当期純利益に対する利益制御という点からいえば、会計基準が導入目的に沿って機能するまでにはある程度の時間が必要であった可能性が指摘できた。(ただし、本論文の検証は米国SEC基準適用企業という限られたサンプルでの行われている。この意味で本論文の結論は暫定的なものである点は否めない。) なお、当該研究については、本年度の日本会計研究学会の自由論題として報告している。
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