2008 Fiscal Year Annual Research Report
「不登校」における「医療化」の多義性とポスト「医療化」論の構想
Project/Area Number |
18730330
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
工藤 宏司 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 講師 (20295736)
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Keywords | 不登校 / 医療化 |
Research Abstract |
今年度は、まず、これまでに引き続き、「逸脱の医療化」に関する欧米の研究論文・文献の収集と整理を行った。その成果を踏まえた上で、「不登校」との接続や、関連性について近年注目を集めるようになった「ひきこもり」について、特に、同現象が問題化された2000年以降の大衆雑誌記事における意味づけの過程とその変遷を追跡することで、「ひきこもり」が当初、精神医療カテゴリーとしてわが国で問題化され、後に、若者の労働問題としての側面を強めていく様相をエスノグラフィーとして記述する研究成果を、書籍として発表することができた。また同書においては、「医療問題」として語られがちな「ひきこもり」について、そのカテゴリー化の政治性にも触れ、おもに「統計調査」において恣意的に定義づけられる様相について指摘し、実態把握における限界を指摘する一方で、その「線引き」が、人々がこの問題に向き合う際のひとつの「認識の方法」として確立されているものであることを指摘する章を、愛知教育大学の川北稔氏と共著で公開することができた。これらの研究は、直接的には「不登校の医療化」をあつかったテーマではないが、「ひきこもり」は歴史的には「不登校」の「重篤なもの」として語られた時期を経て、1990年代後半に社会的注目が高まったのが、2000年のいくつかの犯罪における容疑者が「ひきこもり」であったことで、言わば社会防衛の発想から再注目されたものであり、その際に、精神医学的知識が問題化の方向付けを確定し、「病気ではない不登校」と区別される形で問題として独立した経緯がある。この点を歴史的に指摘した研究はまだなく、その意味でもこれらの研究は独自性を有したものであったと自負している。
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