Research Abstract |
低自尊心者が,過度の安心さがし行動を採ることによって,親しい友人からの評価を引き下げ,拒絶を引き起こすという下方螺旋過程の存在が示されてきた。本研究の目的は,このような不適応な対人プロセスが,重要他者と共有しない,多様で独自なネットワークを多く持つことによって,当該重要他者との間で発生するストレスを低減させ,精神的健康を維持させる機能を持つだろうという仮説を検証することである。 本年度は,昨年度の研究を発展させ,恋愛関係にある恋人ペアに対する縦断的調査を行った。分析の結果,安心さがしを行う低自尊心の男性は,短期的に女性の一体性認知を下げるが,長期的には低下させず,抑うつを高めることが示唆された。それに対して,安心さがしを行う高自尊心者は,長期的にパートナーの女性が認知する一体性を下げ,距離をおかれることが示唆された。 さらに,独自ネットワークに関する分析の結果,次のことが明らかにされた。まず,女性の分析結果から,低自尊心の女性が独自ネットワークを持つ場合には,恋人に対して安心さがしを行っても相手の評価を下げず,逆に恋人から頼りにされているという相手の評価を高めることが示された。これは,仮説を概ね支持する結果であった。男性の分析結果では,高自尊心の男性が,自分独自の友人関係をもつ中で,安心さがしを行う場合,相手の女性に対する評価を高めることが示唆された。逆に,低自尊心の男性では,独自ネットワークが小さい状態で安心さがしを行うほど,恋人に対する評価が高まることが示唆された。低自尊心の男性は,より閉鎖的な関係において安心さがしを行うほど,相手を信頼し,依存していく可能性がある。本研究の結果,恋愛関係における下方螺旋過程に対する独自ネットワークの調整効果が示された。今後,男女の独自ネットワークの効果の違いについて,友人関係の特質の観点から,詳細な検討を行う必要がある。
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