Research Abstract |
Latane, et al. (1994)によるダイナミック社会的インベグト理論(DSIT)を援用した私語のシミュレーションを行うために,プログラム(シミュレーター)を作成した。 シミュレーションは,教室の座席を,端のある(非トーラス型)のマトリクスとみなし,個々人の私語が,他者の私語の発生に対してどのような影響を及ぼすのかについて分析するものである。具体的には,DSITのなかに,ステップごとに一定の確率でランダムに私語を自然発生させるアルゴリズムを加えた。そして,個々人の私語が教室全体に広がる過程を分析した。この際,ランダムに私語が発生する確率や仲間集団の数などを様々に変化させ,その影響について検討した。 その結果,(1)仲間集団の数が増すにつれ,私語が広がり始める「閾値」や,私語率の標準偏差(SD)が低下する,(2)成員に対する強度がある値以上になるまでは,強度が増すにつれて,閾値や私語率のSDは低下するという傾向が示された。また,私語常習者の割合が20%を超えると,私語の発生過程に顕著な変化が生じることも示唆された。 さらに,私語の頻度や大学への同一性などについて,質問紙調査によって検討した。その結果,(1)視点取得が高い学生は,低い学生に比べて私語の頻度と被私語頻度の相関が高い,(2)教室後方ほど,「授業と無関係の私語」の頻度および被私語頻度が高い,(3)教室後方においては,大学への同一性と「授業に関する私語」に対する規範意識の間には,負の弱い相関がある,という傾向が示された。 また,シミュレーション出力結果と,質問紙による測定結果を比較し,シミュレーションの妥当性についても考察した。そめ結果,「授業と無関係の私語」の頻度と座席位置の関連を質問紙法で検討した研究(出口,2005)と類似した出力が得られ,一定の妥当性があることが示唆された。
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