2006 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属酸化物の共鳴非弾性X線散乱における有効モデルの構築
Project/Area Number |
18740174
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
筒井 健二 東北大学, 金属材料研究所, 助手 (80291011)
|
Keywords | 共鳴非弾性X線散乱 / 銅酸化物高温超伝導物質 / 数値的厳密対角化法 |
Research Abstract |
第三世代の放射光を用いて,銅酸化物高温超伝導物質等の遷移金属酸化物に対するK吸収端共鳴非弾性散乱(RIXS)の実験が国内外で集中的に行われはじめている.遷移金属のKやL吸収端付近のX線の波長は格子定数程度であるため,散乱スペクトルにおけるX線の波数変化依存性が測定可能である.これは,これまでの高エネルギー分光でなされてきたような軌道のエネルギー準位を決定するということだけに止まらず,系の集団励起や電子の遍歴性等の情報もRIXSから引き出せることを意味する.本研究では数値的厳密対角化法と呼ばれる手法を用いてRIXSスペクトルの計算を行うことによりその観測理論を構築していく.本年度は二次元銅酸化物絶縁体におけるCuL吸収端共鳴非弾性X線散乱の波数依存性を明らかにした.Cu L吸収端共鳴非弾性X線散乱では,そのX線の吸収・放出がCu 2p軌道と,調べたいCu 3d軌道との間の遷移により行われる.そのためL吸収端非弾性散乱分光はK吸収端非弾性散乱と比較してCu 3d電子の直接的な測定手段といえる. L吸収端非弾性散乱スペクトルの主なものは,始状態で3d(x2y2)に存在していたホールが,それ以外の3d軌道に移動する励起プロセスの,いわゆるd-d励起に起因したものである.その一方で,K吸収端非弾性散乱で見られていたような,ザン・ライスー重項バンドからCu上部ハバードバンドへの励起(モットギャップ励起)も強度的には小さいが特徴的な波数依存性を持って存在すると考えられる.そこでd-d励起及びモットギャップ励起に起因したスペクトルがそれぞれどのような波数依存性で見られるかに注目した.簡単のためX線の偏光を面内のものに限定し,2バンドのハバード模型にCu 2p軌道を加えた模型を用いてクラスター計算を行った.その結果,d-d励起よりもモットギャップ励起の方が波数に対する変化が大きいため,波数変化に対するスペクトル変化を調べることによりモットギャップ励起に起因したスペクトルがL吸収端非弾性散乱でも見いだせることが分かった.CuL吸収端のX線の波長は932eV程度であるため,X線の波数変化がブリルアン・ゾーン全体を網羅することはできないが,その範囲内でも特徴的な波数依存性をもったスペクトルが実験的に得られると考えられる.
|
Research Products
(2 results)