2007 Fiscal Year Annual Research Report
有機三角格子磁性体における新奇基底状態とその低エネルギー励起の研究
Project/Area Number |
18740199
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 哲明 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 助教 (50402748)
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Keywords | 磁性 / 強相関電子系 / スピン液体 / 核磁気共鳴 |
Research Abstract |
量子効果の大きなS=1/2スピン系は、高フラストレーション下では、量子揺らぎによりスピンの秩序化が抑制された量子スピン液体状態が実現する可能性が従来より指摘されている。しかしながら、この量子スピン液体が実現しているという現実の物質はほとんど知られていなかった。このような状況下でスピン液体物質の探索が強く望まれていたわけであるが、本研究課題の平成18年度成果により、[Pd(dmit)2]2X;X=(C2H5)(CH3)3Sbにおいて、1.3Kまでスピンギャップ・磁気秩序を持たず、量子スピン液体状態が形成されていることが明らかとなった。(この結果は平成19年度にPhysical Review Bに発表した。) このような量子液体状態において、低温極限で波動関数の対称性の低下があるかどうか、又励起スペクトルはどのようなものになるか等を調べるべく、希釈冷凍機を用いて20mKまでのNMR測定を平成19年度に行った。その結果以下のことが明らかとなった。(1)20mKまで古典的な磁気秩序は存在せず、スピン系は量子力学的液体状態にある。(2)1Kでスピン-格子緩和率に顕著な異常が見られ、この温度で2次相転移(即ち何がしかの対称性の破れ)がある。(3)低温極限のスピン-格子緩和率は温度の2乗に比例しており、1K以下の低温相においてはnode gapが開いている可能性がある。 スピン液体状態における対称性の破れは、理論サイドからいくつかの可能性が指摘されていたが、実験的に観測した例は今回が初めてであり、以上の結果はスピン液体の物理に大きな進歩をもたらすものである。
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