Research Abstract |
白亜紀中期の海洋無酸素事変OAE2は,無酸素水塊が汎世界的に発達したイベントであり, K/T境界を除くと,白亜紀で最も大規模な海洋生物の絶滅を引き起こしたと考えられている,通常,海洋無酸素事変では, ^<12>Cに富む有機物が大量に堆積物中に除去されるために,その層準では炭素同位体比(^<13>C>/^<12>C)において正のエクスカーションが記録される. OAE2では,約80万年の期間中に炭素同位体比の二回のピークが認められることから,二回の無酸素水塊の大規模な発達が起こったことが示唆される.しかしながら,これまで報告されてきたOAE2の高解像度での解析結果によると,ほとんどの地域では炭素同位体比が正にシフトする層準と,黒旨色頁岩の挟在する層準が一致しない.この要因としては,各地域のローカルな海洋環境がグローバルな海洋環境の変動を覆い隠しているためと思われる.フランス南東部のボコンチアン堆積盆地に露出する白亜系中部は深海性石灰岩から構成されるが, OAE2の層準では, Thomel Levelと呼ばれる黒色頁岩の卓越する約23mの厚さの地層が挟まる.本研究では, Thomel Levelにおいて,微化石群集,炭素同位体比, TOC, CaCO_3,生物擾乱の程度について高解像度で検討を行った.その結果,炭素同位体比が正にシフトする2つの区間では,生物擾乱が弱い暗灰色泥灰岩や黒色頁岩が卓越し, TOCが高く, CaCO_3の含有量は低い.これらの区間では,底生有孔虫が産出せず,オポチュニスティックな浮遊性有孔虫種や放散虫を産するのみである.一方,炭素同位体比が負にシフトする区間では,生物擾乱の発達する灰白色泥灰岩と灰色泥灰岩の互層から構成され, TOCは低く, CaCO_3の含有量は高い.これらの区間では,多様な底生・浮遊性有孔虫化石を産出する.以上のことから,本研究地域のOAE2は,炭素同位体比から見積もられるグローバルな無酸素水塊の発達時期と一致しており, OAE2の重要な模式セクションとなる可能性を有することを明らかにした.
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