Research Abstract |
1999年台湾集集地震時の断層滑り機構を明らかにするにあたり, 断層が記録している摩擦発熱の痕跡は非常に重要な情報となる. 温度変化は, 剪断応力と変位の積を比熱と断層の幅および密度の積との商に相当するためである. 今年度の研究では, 新たな温度指標として炭質物に着目し, ラマン分光および赤外分光による分析を実施した. その結果, チェルンプ断層の黒色ガウジからfracture-damaged帯のすべての構造区分において, 脂肪族炭化水素の-CH_2と-CH_3の官能基の存在が検出された. また, ラマンスペクトルにおけるGバンド(1580cm^<-3>)とDバンド(1350cm^<-3>)の強度比では,黒色ガウジではその比が0.86であるのに対し, それ以外の部分では0.74であった. ラマンスペクトルにおけるD/G比はグラファイト化の指標であり, その比が小さいほどよりグラファイト化が進行している. さらに, そのグラファイト化は高温ほど進行すると考えられている. しかし, 本研究結果は, 他の分析結果より黒色ガウジにおける地震時の摩擦発熱による高温履歴が示されているにもかかわらず, そこでのD/Gは高い(グラファイト化が未進行)ことが明らかになった. この原因について, 酸化反応による分解を提案した(平成20年9月の日本地質学学会第115回大会で発表). また, 前々年度および前年度の研究により, 滑り時の摩擦発熱によって様々な化学反応が生じたことが明らかになっていたが, 今年度はそれらの反応によって消費されるエネルギーの定量的見積もりを実施した. その結果, 1999年の地震時には, 摩擦発熱の0.79%が化学反応に消費されたことが明らかになった(この成果はHamada, Hirono, et.al.でGeophysical Research Lettersで公表した).
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