Research Abstract |
本研究では, 実験岩石学的手法を用いて地殻・上部マントル中で安定な含水鉱物と流体との間のホウ素分配を明らかにすることを目指し, ホウ素同位体組成のSIMS分析用標準試料準備も計画した. しかし, 実験生成物として分析可能なサイズ, あるいはSIMS用標準試料として活用可能なサイズと組成均質性を持つ含水鉱物の合成には, 今のところ成功していない. そこで, ホウ素と同様な振る舞いをするリチウムにも注目し, コクチェタフ超高圧変成帯に産する泥質片岩および花崗岩質変成岩中の電気石のホウ素およびリチウム同位体をSIMSで分析した. その結果, プレート沈み込みによって地下150-200kmの深部にもたらされた, 最高変成度岩の電気石のみが, 地球表層の環境に特徴的な同位体組成を示した. この結果を踏まえ, 沈み込むリソスフェリックマントル中の含水鉱物(蛇紋石)が表層由来ホウ素をマントル深部へ移送したという, 新しいモデルを学術誌に発表した. また, 代表的なマントル鉱物であるカンラン石と流体との間での, リチウム同位体分配を明らかにするため, ピストンシリンダー型高圧発生装置を用いた含リチウムカンラン石の合成実験を行った. 実験は, 沈み込み帯マントルと沈み込んだスラブ物質の脱水分解に由来する流体との反応を想定し, 2GPa, 900℃の温度条件下で行った. (カンラン石+水)組成の出発物質はICPMS, 合成カンラン石はSIMSを用いてリチウムの濃度と同位体比を分析し, 共存した流体の同位体組成をマスバランス計算によって求め, カンラン石-水間におけるリチウム同位体分別係数を計算した. その結果,合成カンラン石のリチウム同位体比は, 共存する流体よりもカンラン石の方が約5パーミル低くなることが確認され, 沈み込んだスラブ物質由来の流体で汚染されるようになった顕生代以降の上部マントル(沈み込み帯マントル)は, 始源的なマントルに比べてリチウム同位体比が低くなるように進化してきた可能性が示唆された.
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