Research Abstract |
本研究では,申請者が開発したマルチプレックスCoherent Anti-Stokes Raman Scattering(CARS)顕微分光装置を用いることで,生体試料のin vivo計測を行った.CRAS光は高強度でかつ指向性があり,イメージを高速に得ることができる.これに加え,CARSスペクトルを取得することにより,複数の振動共鳴した信号を同時に測定可能である.このため,細胞内の構造をマルチカラーで高速に可視化することことができる.今年度はまず,本手法をサクラの花粉に適用した.CARSスペクトルを見ると,複数のバンドから構成されているのがわかった.特に1100,1500cm^<-1>付近のピークはカロテノイドに特徴的な信号であり,それぞれC-C, C=C伸縮振動に帰属した.これに対して,2850cm^<-1>付近にも強い信号を観測し,C-H伸縮信号に帰属した.これまでの研究から,カロテノイドではこのように強い信号がC-H伸縮領域に見られないこと,そして,リン脂質は長鎖アルキル鎖から構成されており,非常に強い信号をC-H伸縮振動領域に与えることがわかっているため、C-C, C=C伸縮振動における信号はカロテノイドに,C-H伸縮振動における信号は脂質に由来するバンドであると考えた.次にC-C, C=C,C-H伸縮振動それぞれによるCARSイメージを比較した.C-C及びC=C振動のイメージは同一の結果を与えた.これは,それらのバンドが同一の化学種(カロテノイド)からのものであるという我々の同定と矛盾しない.一方,C-H伸縮振動によるCARSのイメージは,C-C及びC=C伸縮振動のイメージと異なり,花粉全体の形状を与えた.また,これに加えて発芽孔も見られた.このように,マルチプレックスCARS顕微分光法を用いることにより,異なる化学種を異なる振動コントラストで可視化することに成功した.
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