2006 Fiscal Year Annual Research Report
新規な多量子コヒーレンス生成法に基づく固体高分解能NMR
Project/Area Number |
18750010
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
飯島 隆広 分子科学研究所, 分子構造研究系, 助手 (20402761)
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Keywords | 高分解能NMR / 強磁場NMR / 磁場揺動 / 固体NMR |
Research Abstract |
NMRにおいて、より高分解能なスペクトルを測定するには磁場の強磁場化が極めて有効である。高分解能NMR測定に用いられる最も一般的な磁石は超電導磁石であるが、その磁場強度はせいぜい22T程度である。これよりもはるかに高い磁場を発生できるのが水冷銅磁石やハイブリッド磁石である。しかし、これらの磁石には磁場の安定度が悪いという、高分解能NMRに対する致命的欠陥がある。そこで本研究では、水冷銅磁石やハイブリッド磁石を用いて高分解能NMRスペクトルを測定するための新しい方法を開発した。 我々が考案した方法は次の通りである。NMRプローブの試料付近にピックアップ・コイルを巻きつけ、磁場揺動に伴って生じる誘導起電力をこれで測定する。得られた信号を時間積分してNMR位相角に変換し、それをもとに磁場揺動補正信号を生成する。NMR測定は誘導起電力の測定と同期して行う。NMR信号に磁場揺動補正信号をdeconvolutionすることにより磁場揺動成分を取り除き、「安定な」磁場下でのNMR信号を得る。 本法を実証するため、物質・材料研究機構に設置されているハイブリッド磁石(30T)を用いてNMR測定を行った。NMRプローブに0.435mmφの銅線を100mmに渡り巻きつけピックアップ・コイルとした。用いた試料は粉末KBrで、79Br MAS(マジック角回転)NMR測定を共鳴周波数324MHzで行った。 NMRと誘導起電力の同期測定を20回行った。補正処理前は、ハイブリッド磁石の磁場揺動のためにNMRスペクトルのピーク位置は測定毎に変化し、その広がりは約200ppmにも達した。誘導起電力のデータを用いて補正処理を行ったところ、各NMRスペクトルのピーク位置は一点に集中し、位相はout-of-phaseからin-phaseに変化し、またピークの線幅も約1.5ppm減少した。補正後のスペクトルを20個足し合わせた結果、線幅が約4.4ppmの高分解能79Br NMRスペクトルが得られた。このように、本研究により、揺動磁場下で固体高分解能NMRの測定が可能となった。
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