Research Abstract |
インシュリンは体内で糖代謝を行う。最近,ヒトの臨床実験から,バナジウムにインシュリンの作用を促進する働きがあることが見出された。しかし,その作用機作は不明な点が多い。また,ヒトの血清中のバナジウム濃度は,多くの場合100μg/L(ppb)以下であり,高感度な分析法が求められる。そこで本年度は,糖尿病に深く関わるバナジウムの高感度分析法の確立を行った。分析技術には,微少量の試薬溶液で分析可能な流れ分析法(フローインジェクション分析(FIA)法)を用いた。FIA法では,キャリヤー溶液と試薬溶液を一定流速(約0.5mL/min)で流し,キャリヤー溶液にサンプル溶液を注入して,サンプル濃度に比例したFIAピークを得る。バッチマニュアル分析法に比べれば試薬量は大幅に削減できるが,試薬溶液を常に流し続けることになる。従って,特に反応時間が長い反応系を扱う場合は,試薬の消費量が反応時間に比例して増大してしまう。そこで,反応溶液をループ内に隔離することにより,流れが止まった状態で反応を促進させ,この間,ポンプを止めて試薬を流さない新しい流れ分析技術を考案した。測定の直前にポンプを再作動し,べースラインを形成させた上で,その流れに反応溶液を注入して測定するので,最小限の試薬で高感度分析を行うことが出来た。この方法をストップトーインーループフロー分析(SIL-FA)と呼ぶ。微量バナジウムの定量のために,バナジウムが接触(触媒)作用を有するp-アニシジンの臭素酸塩による酸化発色反応(極大吸収波長523nm)を開発した。この接触作用はタイロンにより活性化されることも見いだした。この接触作用をSIL-FA法へ導入したところ,0.05〜2ppbのバナジウムを定量することができた。
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