Research Abstract |
阿讃山地を源流として中讃地域を流れる綾川の中流域において,ボーリングを実施した.土壌は9種類に分類され,そのうち有機物を含むシルト基質の4つの試料(No.1,3,5,8)についてプレパラートを作製し,花粉の同定・計数を行った. 香川県の現在の植生を自然環境保全基礎調査より調べると,綾川流域は中・下流域に水田が広がり,上流域にはアカマツ群落が大半を占め,阿讃山地の未開発地域にはアラカシ群落が点在することが分かった.一方,表層のNo.1(深度:0cm〜10cm)の試料の花粉は,木本総数のうちマツ属が65%と大半を占め,アカガシ亜属が18%みられた.一方,草本花粉はイネ科が多くみられた.この結果は,現在の植生図と非常に良い対応関係があり,土壌中の花粉を用いて流域植生が復元できることがわかった. No.8(深度:773cm〜779cm)では,木本花粉割合が70%弱と多く,木本花粉のうち原生林の特徴を示すアカガシ亜属が優勢であった(50%弱).No.5(深度:333cm〜340cm)では,草本花粉が多く(60%強),草本花粉のうちカヤツリグサ科が多くみられた.また,下部層準(No.8)になかったイ科が出現した.No.3(深度:160cm〜167cm)では,No.5と類似した結果となった. この結果をもとに綾川流域の植生を推定すると,最も古い層準(No.8)の時期は,アカガシ亜属を中心とした豊かな原生林が広がり,No.5の時期になると,それまでみられなかったイネ科の植物が出現し,稲作が行われ始めたと推定される.また,カヤツリグサ科などの湿地の特徴を示す草本花粉が多くみられ,周辺地域に湿地が広がる水辺の環境が存在したと考えられる.そして,現在は二次林としてのマツ属が増加し,アカガシ亜属をはじめとした原生林が減少したと考えられる.
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