Research Abstract |
開発途上国では,コレラ等の水系感染症はいまだに死因の上位に位置しており,感染症の流行が経済成長を停滞させ,持続可能な発展を妨げる主要因となっている。本研究の目的は,途上国における社会基盤,経済,教育,医療等の観点から社会システムの動態を考慮したリスク評価モデルを開発することである。本年度の成果を以下にまとめる。 1.水利用と水環境汚染に関する現地調査 カンボジアの首都プノンペンおよび近郊の農村集落において,昨年度に引き続き,水利用と水環境汚染に関する現地調査を実施し,現在の水系感染症のリスクを評価した。 2.社会システムレベルでの水系感染症リスク評価モデルの構築 課題1および昨年度の研究成果に,国連等の国際機関が公表している資料を加え,世界の国と地域における社会基盤(安全な水と衛生設備の普及率),教育(成人の識字率),環境(人口密度),経済(GNI),災害(自然災害の被害者数)に関わる変数を用いて,水系感染症のリスク(下痢症による5歳未満児の死亡率を指標とする)のキャラクタリゼーションを行った。比較のため,感染経路が水系でない感染症(麻疹,マラリア,肺炎)についても,同様のリスク・キャラクタリゼーションを行った。その結果,下痢症のリスクについては,水供給・衛生設備の普及率や識字率,そしてGNIと強い相関があった(p<0.01)。水供給・衛生設備の普及率および識字率との強い相関は,麻疹やマラリアにも共通して見られたが,肺炎については相関がなかった。一方,GNIとの相関は肺炎だけに見られ,麻疹やマラリアのリスクには,経済状況は反映されていなかった。以上の考察をもとに,社会システムを規定する社会基盤,教育,経済に関するファクターを加味した,途上国における下痢症のリスク評価モデルを構築した。
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