2006 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアにおける文化遺産のオーセンティシティに関する比較研究
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18760489
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Research Institution | National Research Institute Cultural Properties, Nara |
Principal Investigator |
清水 重敦 独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所, 文化遺産部, 研究員 (40321624)
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Keywords | オーセンティシティ / 保存修復 / 東アジア / 原状 / 松室重光 |
Research Abstract |
初年度である本年は、日、中、韓三国における文化遺産、特に建造物の保存修復史のとらえ方に主眼を置き、情報収集をおこなった。日中韓三国におけるオーセンティシティに関わる考え方は、その形成期における欧米との関係の持ち方により差異が生じたものと推定しており、まずは各国における近代の保存修復の形成期を追うことにつとめた。 日本については、既往の研究蓄積を元に、明治期の京都における建造物修復の監督を担った松室重光の活動の意味を評価する論文を執筆した。日本における建造物修復の歴史の劈頭を飾る人物の業績を再考することで、保存修復の歴史に一つの核となる視点を提示し得たものと考えている。 韓国については、文化庁及び韓国文化財庁が主催する日韓文化財建造物保存協力協議会という機会に相乗りし、「日韓における文化財建造物保存の興隆と展開」と題する公開講演会を企画し、日韓の研究者による講演をコーディネートした。また、自らも「技術者の系譜からみた日韓の初期文化財建造物修理技術」を報告し、講演レジュメとして論文を執筆した。韓国の建造物保存修理は、日本支配時代とそれ以降とで断絶があるとされており、その状況を客観化するためにも、日本側の視点から日本支配期の建造物修理について考察しておく必要があると考えたもので、韓国の研究者による研究成果と重ね合わせることで、より深い理解が可能となったものと考えている。 中国については、保存修復の根本概念として、「原状(histroric condition)」という概念を独自に定義して使用していることがわかり、その概念の起点が20世紀前半にあることが判明した。この情報を元に、文献の収集をおこなった上、現在の中国において修復に対する考え方にいかにこの思想が継承されているかを理解するため、北京を訪問し、建造物修理技術者へのインタビューを実施した。
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