2007 Fiscal Year Annual Research Report
アパタイト系セラミックスの量子構造に基づく機能設計
Project/Area Number |
18760506
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松永 克志 Kyoto University, 工学研究科, 准教授 (20334310)
|
Keywords | バイオマテリアル / 第一原理計算 / 格子欠陥 / 結晶構造 / イオン交換 |
Research Abstract |
我が国の人口構造の少子高齢化に伴い,福祉や医療を支える生体・福祉材料の果たす役割が益々重要となってきた。なかでも,代表的な生体材料であるアパタイト(リン酸カルシウム)系セラミックスは,人骨と類似した化学組成を持つこと,生体内組織や骨と良好な親和性を有することなどから,人工骨・歯根や骨補填・修復材として期待され,さらなる特性向上を目指した材料開発や臨床実験が行われている。しかしながら、アパタイト系セラミックスの構造や物理的・化学的性質については依然不明な点が多く、さらなる高性能材料の開発を合理的かつ効率的に行うには、金属やセラミックス分野で近年盛んとなってきた電子・原子レベルの材料科学的観点を応用した研究を早急に進めていくことが望まれる。そこで本研究では、計算科学的手法を用いてアパタイト系セラミックスの構造と機能を理論的に解明することを目的とした。水酸アパタイトを主たる対象とし、結晶構造中の点欠陥形成エネルギー、プロトンの挙動などの定量的評価を行い、同物質の生体活性との相関を明らかにする。 本年度は,水酸アパタイト中における点欠陥形成エネルギーの水素イオン濃度依存性について主に検討を行った。点欠陥計算に際しては、基礎的検討を終了しているスーパーセルを用い、そこにOH、O、H、Caなどの孤立点欠陥を導入し点欠陥周囲の緩和構造および全エネルギーを計算した。得られた全エネルギーの計算結果を基に、水酸アパタイト結晶と水酸アパタイト飽和水溶液間の固液化学平衡状態を仮定した熱力学解析を行い、各種点欠陥形成エネルギーのpH依存性を調べ、水酸アパタイトでの支配的点欠陥種を調べた。その結果、水溶液からアパタイト結晶へのプロトンの混入が重要であり、Ca置換もしくは格子間サイトでプロトンは安定に存在しうる。また固相アパタイトと化学平衡している水溶液pHにもプロトンの安定性は依存し、酸性側でプロトンがさらに安定化されるのにともない、Ca欠損量が増大することが判明した。これは従来の実験研究結果ともよく一致した傾向であり、本研究での計算解析手法の妥当性を示すとともに、アパタイトの非化学量論性の起源を説明するものであるといえる。
|