Research Abstract |
光合成の初期課程では,太陽光工ネルギーが照射されると,光化学系IIのP_<680>クロロフィルが電荷分離されて電子を生み出して電子伝達が始まる。一方,光化学系IIはMn4Ca錯体の触媒作用によって水を酸化し,イオン化されたP_<680>に電子を渡す。この第一電子供与体となるP_<680>は推定+1.2Vという生物界で最も高い酸化還元電位を保持している。この高い電位の為に生物は水を酸化する機能を持つことができる。研究第2年目に当たる平成19年度では,P_<680>と考えられているクロロフィル分子のリガンドとなるアミノ酸D1-His198をAlaおよびGlnに置換した好熱性シアノバクテリアの遺伝子組変え体を作製し,置換による表現型の変化,P_<680>周辺の分子構造と水の酸化機能への影響について調べた。その結果,クロロフィルのMgはそのまま残っており,AlaとMgの間には水が存在することを確認した。表現型としては光に対して敏感になり,光アンテナの減少が認められたが,酸化還元電位の変化は小さく,水の酸化機能には全く影響しないことが分かった。 ところで,このアミノ酸(D1)をコードする遺伝子psbAはゲノム上に3つあり,配列は同一ではない。本年度は,これらのホモローグ遺伝子の発現様式,および,それらの違いによる水の酸化機能の違いについても調べた。その結果,通常の培養条件下ではpsbA1が発現しており,強光のストレスを与えるとpsbA3が誘導されてくることが分かった。psbA1とpsbA2を破壊してpsbA3のみを発現させた変異体の光化学系IIはpsbA1で構成される光化学系IIよりも1.8倍の高い水の酸化活性を持っていることが明らかになった。この理由については,3年目で明らかにしたい。
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