Research Abstract |
これまでに疲労後のマウス海馬において発現が上昇する因子として,脳神経活動電位の伝達に関与するAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)a1サブユニット(GluR1)と神経細胞においてアポトーシスのシグナル伝達に関与するB-cell receptor-associated protein 31 (Bap31)を新たに見出した。AMPARはGluR1以外にGluR2,3,4の4つのサブユニットからなるが疲労後では,GluR1以外のサブユニットはその発現が全く変化していなかった。また,in situ hybridizationによる解析から,GluR1とBap31は疲労後の海馬の歯状回と記憶形成に関与するCA1領域で発現が上昇していた。GluR1は単独でも受容体チャンネルを形成し,その受容体のカルシウム透過性が増大することから,疲労後にGluR1ホモ受容体の比が増加し,細胞内へのカルシウムの流入が増大することによりアゴニストに対する電流応答が変化している可能性が示唆された。一方,拘束水浸ストレスを与えたマウスでは,GluR1とBap31の遺伝子発現に変化は見られなかった。従って,GluR1とBap31は精神ストレスではなく疲労の時にのみ発現が誘導される因子であり,疲労発現に関与する重要な因子であることが分かった。更に,マウス海馬において疲労時ではなく拘束水浸ストレスを受けた後24時間後に発現が誘導される因子として,Myosin VI (Myo6)を新たに見いだした。Myo6はAMPARのインターナリゼーション(AMPARが細胞内へ取りこまれ,分解されること)に関与している因子であることから,精神的ストレスを受けたときは,Myo6の発現増加によりAMPARのインターナリゼーションが促進され,神経伝達機能が低下することが示唆された。このように疲労時及び精神的ストレスを受けたときにおいてもAMPARが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。更に,疲労回復に関与する因子を探索するため,疲労回復期におけるマウス脳内の遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイにより解析した。Std ddy系雄6週齢のマウスをマウス運動量測定流水槽で遊泳させ,限界遊泳時間を3回測定した。3回の平均遊泳時間が約40分のマウスを対象として,Control(疲労させないマウス)群,運動中に処置した群,困憊まで疲労させた群,疲労後に回復した時期に処置した群の4群に分け,それぞれの群で一定の処置を終了した後,海馬からmRNAを調整の後,マイクロアレイ解析を行った。その結果,疲労回復時にのみ海馬で発現が誘導される因子として,電位依存性カルシウムチャンネルの制御下でグルタミン酸などの神経伝達物質の放出に関与する重要な因子synaptotagmin(ST)とsynaptosomal-associated protein23(SNAP23)を新たに発見した。疲労回復期には神経細胞内のカルシウム量を増加させる働きが重要であることが示唆された。
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