| Research Abstract |
運動神経細胞(MNs)は代謝ストレスに対して選択的な脆弱性を示すが,その「選択的脆弱性」の分子機構は未解明である.私は,その分子機構を解明することが,MNsが選択的に障害される神経変性疾患の一つである筋萎縮性硬化症(ALS)の発症機序を解明する一助に成ると考え,低酸素状態における舌下神経MNsと迷走神経背側核(dmX)のシナプス入力を比較検討した.左記神経核を選択した理由として,両神経核が下部延髄において互いに隣接し,いずれもコリン作動性大型神経細胞から構成されているにもかかわらず,舌下神経はMNsの集合であるのに対し,dmXはnon-MNsの集合であることがあげられた. 若年ラットの急性脳幹スライスを作成し,パッチクランプ法により,局所神経回路の構造を維持した状態で,舌下神経MNsとdmXを実験的な低酸素状態に置き,テトロドトキシン存在下に膜電位,膜電流,シナプス後電流を測定した.その結果,(1)舌下神経MNsでは,低酸素負荷に伴い,内向き電流,グリシン放出の増加,NMDA受容体電流の増強が認められた.(2)一方,dmXでは外向き電流が生じ,神経伝達物質放出の変化は認められなかった,という電気生理学的特長を証明した。 以上の結果は,MNsにおいては,代謝ストレスによりグリシン放出が促進され,本来は抑制性作用を示すこの神経伝達物質がシナプス間隙においてspilloverし,NMDA受容体に対しては共作動物質として機能し,最終的には興奮性作用のあるNMDA受容体活性が増強され,選択的に細胞死が誘導されることを,世界で初めて電気生理学的に証明したものであり、この結果はALSの病態解明には重要な役割を果たす現象であると考えております. なおこの結果は次ページにも述べる雑誌にて報告した。(Eur J Neurosci 25;1748-1757,2007)
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