Research Abstract |
初年度の取り組みとしてもっとも時間を割いて行ったことは,次の2点である. (1)当教室が保有する多くのスライドの臨床データ(臨床診断,性別,発症年齢,死亡年齢,罹病期間,死亡時年齢),病理学的データ(脳重量,病理学診断)およびゲノム遺伝学的データ(codon129遺伝子型,家族性プリオン病の変異コドン)の整理収集: 当教室はヒトプリオン病の貴重な標本を多数有しているが,標本のバックグラウンド情報は,さまざまな医療機関からの持ち込み標本が多いため,十分に整理されているとは言えなかった.当教室の記録ではわからない部分は,当時の主治医や病理医に直接問い合わせを行い,一部症例報告の形で論文となっている標本に関しては論文を取り寄せ,情報の統合を行った.標本の作製期間が長期間にわたるため,この作業は予想以上の困難を伴ったが,協力者の支えもあり,ほぼ全てのデータを揃えることができた. (2)染色設備のセットアップおよび用いる標本の変更: 得られた研究費を元に基本的な試薬(パラホルムアルデヒド,エタノール,キシレン),染色バット,染色篭,スライドグラス,封入剤などのハード面での整備,ならびに1次抗体,2次抗体,蛍光発色基剤などの購入を行った.ヒト剖検脳を用いた免疫染色を当初検討していたが,保存状態が標本によって全くことなることが判明したことから,実現は難しいと考えられた.代わってラットなどの齧歯類を標本として海馬の情報伝達を担う転写因子の免疫染色プロトコルの立ち上げに実験の主軸をシフトした.いくつかの転写因子や受容体に候補を絞り,老年期神経変性疾患に重要と目される標的分子の多重蛍光染色系を安定して走らせるための予備実験を行った.
|