Research Abstract |
糖尿病網膜症をはじめとする硝子体切除検体を用いて, 網膜症に関連する要因を同定した. まず糖尿病網膜症においては蛋白糖化最終産物の濃度が増大していることを3種類(CML, pyrrahne, imidazolone)に対する抗体で確認した. さらに硝子体中の蛋白糖化最終産物濃度の高い患者においてはtotal antioxidapt powerが低く, VEGF濃度が高い傾向にあることが明らかになった. このように, 糖尿病網膜症は, 蛋白糖化最終産物だけではなく, 眼局所における抗酸化能の低下やサイトカインの発現にまで影響を及ぼしていることが推察された. 次に我々は, 右手型アミノ酸(D型アミノ酸)と糖尿病眼合併症の関連を明らかにした. D型アミノ酸は生体内には本来存在しないと考えられていたが, 我々はD型アミノ酸を含有する蛋白質が, 水晶体, 強膜, 毛様体無色素上皮基底膜, 網膜血管, 網膜内境界膜, 篩板といった眼の様々な領域にD型アミノ酸含有蛋白質が沈着することを明らかにした. これらのD型アミノ酸含有蛋白質の沈着部位は, 眼の加齢性変化が最も進みやすい部位であることより, 生体内におけるD型アミノ酸形成は眼の加齢性変化に密接な関連を有することが明らかになった. 次に我々は糖尿病患者の角膜上皮基底膜には, D型アミノ酸含有蛋白質が豊富に含まれていることを明らかにした. 角膜上皮基底膜の中も最も細胞接着に重要な役割を果たすラミニンについて, 高血糖の及ぼす影響を検討した。その結果, ラミニンを50℃で穏和に1ヶ月加温することより, アスパラギン酸残基のD/L比が0.01から0.13に上昇した. すなわち, 加温は蛋白質中のアスパラギン酸残基のラセミ化を促進させることが明らかになった. さらに反応液にグルコースを250mM添加することによって, アスパラギン酸残基のD/L比は0.16にまで上昇した. すなわち, グルコースの存在は, 蛋白質中のアミノ酸残基のラセミ化を促進させることが明らかになった. 最後に, ラセミ化されたラミニンの機能を, 培養角膜上皮細胞を用いて定量的に評価した. その結果, グルコースを加えずに加温することでラセミ化を促進させたラミニンの細胞接着能は50%程度減少することが明らかになった. さらにグルコースを加えながら加温するおとにより, 細胞接着能は80%以上低下した. このように, ラミニン分子のラセミ化は, 高血糖により誘発され, ラミニンの機能障害につながることが明らかになった. このことは, 糖尿病患者の角膜上皮細胞が基底膜と接着不良を生じている原因となっている可能性が高いことが証明された. このように, D型アミノ酸は糖尿病眼合併症と深く関連があることが証明された.
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