Research Abstract |
【緒言】歯周組織でのメカニカルストレス(力学的負荷)の影響は,局所炎症や骨代謝であるとされている。本年度は,生理的強度(6MPa)を越えた過度のメカニカルストレスに対するヒト歯根膜由来細胞(以下hPDL細胞)のサイトカイン産生に関して検討を加えた。 【材料および方法】hPDL細胞は,抜去歯牙の歯根膜組織片を初代培養後,1×10^5CFU/mlに調整,静水圧(6MPa,10MPaおよび50MPa)を負荷した。そして炎症性サイトカインのIL-1β,IL-6,IL-8,TNF-αに関してRT-PCR法およびELISA法を行うとともに,細胞形態を観察した。 【成績】hPDL細胞は,6MPa,10分間負荷後,IL-6,IL-8,TNF-αmRNAが発現,さらに負荷時間と強さを増すと,全ての炎症性サイトカインmRNAが発現誘導された。炎症性サイトカイン産生量は負荷後にIL-6,IL-8産生を認めたが,IL-1β,TNF-α産生をほとんど認めなかった。サイトカイン産生量は,6MPa負荷後と比べ10MPa負荷後にIL-6,lL-8産生量の増加を示し,特にIL-8は有意な増加を認めた。さらに50MPa負荷後には,6MPa負荷後と比べIL-6,IL-8産生量の減少を示し,特にIL-8は有意な減少を認めた。 またhPDL細胞は,6・10MPa負荷後に形態学的変化を認めず,50MPa負荷後ではほぼ紡錘状の形態を有したが,一部細胞が培養皿から剥離した。 【考察および結論】hPDL細胞は,生理的強度の約2倍(10MPa)のメカニカルストレスで,生理的強度に比べ炎症性サイトカイン産生が増加した。一方,非生理的強度(50Mpa)では,逆にサイトカイン産生が抑制された。 以上から,外傷性咬合に代表される歯周組織への過大なメカニカルストレスで生じる局所炎症には,歯根膜由来の炎症性サイトカインが関与すると考えられた。
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