Research Abstract |
車いす駆動に伴う身体負荷や効率,操作性などを生体力学的に評価するため,使用者がハンドリムに加える3次元的な操作力(力とモーメント)と車輪の回転角度を同時に検出可能な駆動計測ホイールを製作した.本計測ホイールは,使用者が普段利用している車いすに直接取り付けられるよう,また,屋内外での計測実験が容易に行えるよう,システムの無線化を図ってある.実験では,第12胸髄節から第2腰髄節までの脊髄損傷者8名を対象に駆動計測を実施し,得られた駆動データと上肢の筋電位信号の結果から,上肢関節トルク,関節間力,筋張力などの実測困難な生体内力を推定した.また,等速性筋力評価装置による上肢7関節(肩関節の屈伸,内外転,内外旋,肘関節の屈伸,手関節の回内外,掌背屈,橈尺屈)の最大関節トルクの実測値から,手先力の発揮しやすい方向老発揮しにくい方向をそれぞれ算出し,ハンドリムへの力の加えやすさという新しい観点から車いす操作性を解析した.その結果,車いす使用者は,手先力の発揮しにくい上肢姿勢から駆動を開始しなければならないが,駆動期の後半では手先力の発揮しやすい方向とハンドリム接線方向とが一致し,効率良く推進力を生成できることが示された.また,旋回性や片流れ路面での走行安定性に有効なキャンパー角が,手先力の発揮しやすさという上肢運動特性の観点からも有効に機能し,生体力学的に効率の良い力の伝達をもたらすことが明らかとなった.これらの知見は,身体負荷の少ない,操作性の良い車いすを実現するために,どのような手先軌道でハンドリムを操作すべきか,あるいは,どのような強度とタイミングで駆動をアシストすべきかなど,手動車いすやパワーアシスト車いすに対する一つの設計指標として有効である.
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