Research Abstract |
本研究の目的は,ヒトの言語を用いた意味処理過程の基盤となる心的辞書機構における意味処理機能に関する認知モデルを構築することにあった.平成18年度は,ヒトの脳内に仮定される心的辞書において,熟語を構成する漢字(e.g.,病)を共有する近傍語群(e.g.,病院病気)の意味表象ネットワークが,どのように体制化されているのかを明らかにするために,漢字一字を手がかりとする熟語の想起調査(近傍語想起調査)を実施し,熟語の意味的特性に関するコーパスを作成した. 調査では,教育漢字1,006字を対象として,これらの各漢字を手がかりとして,その漢字を熟語の前位置あるいは後位置に含む近傍語を連想する近傍語想起課題を実施した.調査参加者は大学生600名であり,集団で調査に参加した.調査参加者の語彙知識水準を一定に保つために,調査とは別に読みの能力テスト「百羅漢」(近藤・天野,2000)を実施した(平均51.3点). この調査結果に基づき,各漢字ごとに,前と後の呈示位置別に,想起された近傍語の一覧表を作成した.この一覧表によって,特定漢字を前位置または後位置に含む近傍語群について,想起頻度と近傍語の種類数が参照可能となった. たとえば,「協」を前位置に含む第1想起語で最も高頻度である熟語は「協力」であり,第2想起語では「協会」と「協賛」であった.川上(2005)の意味的類似性評定によれば,前漢字「協」を含む近傍語群の平均評定値は2.91であり,これらの近傍語間で最も高い意味的類似性をもつ熟語の組み合わせは,「協力」と「協調」(評定値4.29)であった.今回の一覧表をもとに,熟語(e.g,協力)の認知に対して,特定近傍語(e.g,協調,協会)が及ぼす影響を,意味的類似性と想起頻度の両面から検討することが可能となった.
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