2006 Fiscal Year Annual Research Report
石造文化財と水に関する研究-溶出実験から捉えた化学的風化-
Project/Area Number |
18800094
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Research Institution | National Research Institute Cultural Properties, Nara |
Principal Investigator |
脇谷 草一郎 独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所, 企画調整部, 特別研究員 (80416411)
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Keywords | 石造文化財 / 溶出実験 / 化学的風化 / 強化処理 / 撥水処理 / 有機ケイ酸エステル |
Research Abstract |
本年度はチリ国イースター島にあるモアイ像に用いられている凝灰角礫岩を試料石材として溶出実験を実施した。これらの石材に対して石造文化財の保存処置に広く用いられている、有機ケイ酸エステルによる石材の強化処置、および撥水処置を施し、これらの処置によって溶出成分がどれほど変化するのかを調べている。またモアイ像に用いられている凝灰角礫岩の浸漬水は弱アルカリ性を示すこと、イースター島現地における調査からモアイ像表面の温度は日中60度近くまで上昇することなどから、溶出成分のpH変化および温度変化をも調べた。また強化・撥水処置や溶出実験を施すことによって、これらの石材の強度がどれほど変化するのか調べるために、超音波伝播速度による強度試験を実施した。 溶出実験をおこなった結果、カチオンではナトリウム、カリウム、カルシウムの溶出が顕著であった。特にカルシウムでは以下の傾向が認められた。すなわち弱酸性環境にくらべて弱アルカリ性環境では溶出量が増加するが、強化処置を施すことにより、その溶出量は若干減少することが示唆された。また温度に関しては40℃にくらべて60℃では溶出量が若干減少する、あるいはほとんど変化が無いことが示唆された。これらの金属は凝灰角礫岩中のマトリックスである火山ガラスおよび斜長石類から溶出したものと推察される。アニオンでは全体的に溶出量が少なく、わずかにリン酸、硫酸が溶出したのみで、海が近くにあるにも関わらずその塩類の影響はほとんど認められなかった。現在は撥水処置を施した試料を用いて実験を実施している。超音波伝播速度から算出される動弾性係数では強化処置によって試料の動弾性係数は大きく増加するものの、溶出実験をおこなうことによりその値は大きく減少した。すなわち、強化剤であるケイ酸も失われていることが推察される。このケイ酸の定量分析に関しては、来年度に実施する予定である。
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