Research Abstract |
高出力のパルスレーザーを固体表面に集光し,集光点においてレーザ光のパワー密度がしきい値を越えると,固体がレーザエネルギを吸収し瞬間的に溶融・蒸発してプラズマ化する.この現象はレーザアブレーションと呼ばれる.レーザアブレーションで生じたプラズマは急速膨張して焦点近傍の気体を圧縮し,ブラスト波を駆動する.ブラスト波は周囲空間を伝搬し,その波面背後に高速気流を誘起する.しかし,ブラスト波は伝播距離の増加と伴に徐々に減衰し,最終的には音波へと変化する.このレーザアブレーション形成時に生じるブラスト波とその背後に誘起される高速気流を用いて可燃性固体表面上に形成された拡散火炎を消火することができる.この消火法をレーザ消火とよび,研究を行っている.レーザ消火は,原理的に長距離消火が可能であること,消火位置の制御が簡便に行えること,そして消火剤を使用しないため水損・汚損を回避できること等の利点がある.このような光のエネルギ粒子としての性質を利用した新たな消火法を確立するために,本研究は火炎の大きさ,投入するレーザエネルギ,火炎と焦点との距離を変化させる等の条件を変化させて消火実験を行い,レーザ消火の基礎的な特性を明らかにし,その消火法の確立を目的としている.平成18年度に行った研究により得られた知見を以下に示す. 1.レーザパルスエネルギ200mJ/pulse,集光レンズの焦点距離100mm.アブレーターをアクリル樹脂として形成したレーザアブレーションによって生じる爆風を用いて,アクリル上を鉛直下方に伝播する拡散火炎を消火できることを実証し,レーザによって消火できる火炎基部幅の限界値を明らかにした.その値は20mmであった. 2.レーザ消火で消火が達成できない場合を,高速度カメラで記録し,その火炎の振る舞いを観察した.その結果,レーザアブレーションによって形成された爆風によって火炎基部が吹き飛ばされ,火炎の存在によって形成された自然対流によって下流へと移流される.そして火炎が吹き飛ばされたとしてもアクリルは可燃性気体を放出しつづけ,吹き飛ばされた火炎基部の上流に可燃予混合気層を形成する.その可燃性混合気層中を吹き飛ばされた火炎基部が上流へと伝播することによって,初期の火炎基部位置に火炎が再形成されると考えられる. 3.レーザによって消火できる火炎幅方向の限界値は,ブラスト波が強い衝撃波として伝播できる距離の2倍つまり,半球状に形成されるブラスト波の直径とほぼ等しいことを明らかにした 4.火炎高さ方向のレーザ消火の限界値は,火炎基部の幅方向とは決定機構がことなり,先に述べたように吹き飛ばされた火炎基部の伝播速度,可燃性混合気層の形成速度,火炎の存在する場の流れの速度などのバランスによって形成されていると考えられる.
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