2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18820021
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
吉田 雅子 京都市立芸術大学, 美術学部, 講師 (40405238)
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Keywords | 美術史 / 工芸 / 染織 / 中国 / 大航海時代 |
Research Abstract |
私の研究対象は、中国で明代後期から清朝に制作されたと推定される大型の花鳥獣刺繍であり、特に日本に舶載されて伝来している作例を中心としている。今期は、日本に伝来するこの種の作品を整理し、代表的な2作例の調査結果を報告し、中国における産地を推定し、四方向き構図の作例の制作背景を探る作業を行った。そしてその結果を、論文「西教寺や本圀寺に伝来する花卉鳥獣文様刺繍-制作地と制作目的をめぐって-」にまとめた。 この論文では、まず中国の第一次史料と研究書に基づいて広州で制作された粤綉の特徴を整理し、さらに中国に残る粤綉の最も古い現存作例である清朝の作品、及び民国時代の作品を調査した。そして基準作である西教寺打敷が、粤綉の文献記述や中国伝存作品と同じ特徴を有していること、この作品の制作地は広州であること、日本に伝来しているこの種の作例は現在確認できる粤綉の最も早い作期の作例にあたることを明らかにした。 次に、欧州に伝存する作例、インドで制作された欧州人向けの作例、ペルーで制作された欧州人向けの作例と西教寺打敷を比較した。そして西教寺打敷の四方向き構図の鳳戯牡丹は、17〜18世紀にポルトガル、スペイン、イギリスの交易ルート上で欧州人により消費されていた図様であり、この図様は欧州人に向けて制作された国際様式の主題である可能性が高い事、西教寺打敷は欧州を中心に、国外へ輸出することを目的に制作されたものである事を明らかにした。 さらに、西教寺打敷は墨書により制作年代の下限が判明する基準作例として資料価値が極めて高い事、日本伝存作例はポルトガル・ルートのみならず、従来指摘されることが少なかったスペイン・ルートやイギリス・ルートの交易との関連を示しており、広汎な視野をもって文物の影響関係の問題を考えてゆく必要がある事を指摘した。
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Research Products
(1 results)