2007 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭のグローバリズム:坪内逍遥によるパジェント日本輸入の試みと消費文化
Project/Area Number |
18820031
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉野 亜矢子 Waseda University, 大学院・アジア大平洋研究科, 講師 (70409720)
|
Keywords | パジェント / スペクタクル / 坪内逍遥 / グローバリズム / 民衆演劇 / 歴史野外劇 / ヒストリオグラフィー / 地方演劇 |
Research Abstract |
本研究は、1920年代以降の坪内逍遥のパジェント日本輸入の試みを、同時代のイギリスのがパジェントのありかたと比較しつつ検証することを目的としている。坪内のパジェントについては、本人がシェークスピア研究で著名であることもあり、ルネッサンス期、ないしは中世のパジェントとの関連性で語られることが比較的多かった。しかし、坪内本人の著作からも明らかであるように、実際には、同時代の英米のパジェントの理念に非常に大きな影響を受けている。 本研究では特に1931年のブラッドフォードパジェントに照らし合わせながら坪内のパジェント輸入の試みを分析しようと試みた。坪内は英米の近代パジェントのあり方に強い関心を寄せつつも、その目的があまりにも実利に偏りすぎているとの批判をしていた。具体的には、特にイギリスにおける「民衆教化」の言説に違和感を覚え、より「芸術的な」パジェントを日本に根付かせようとしていたといえる。しかし、パジェントをイギリス及びアメリカで大きな社会的な運動にさせたものは、経済効果というまさた「実利」の側面であった。 1931年のブラッドラォードパジェントでは、世界恐慌により、数多くの失業者を抱えた町が、再生を賭してパジェントを催しており、「民衆教化」をはるかに超えた経済効果が、いかにパジェントブームにおいて重要な役割を担っていたのかを伺わせる。経済効果は、パジェントブームにおける語られざる重要要素であり続けたが、坪内の著作物からはその要素がほぼ読み取られない。 しかし、「世界に対し」ローカルな文化を発信するというパジェントの持っていたもう一つの要素は、坪内パジェント理念においてもまた顕著なものであり、それはパジェントの理念に関する著述のみならず『熱海町のページェント』などの脚本中にも顕著であり、予想をはるかに越えた近似性が認められた。
|