2006 Fiscal Year Annual Research Report
弱視の視覚特性による漢字視知覚特性の解明とそれに応じた漢字学習環境の構築
Project/Area Number |
18830050
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
氏間 和仁 福岡教育大学, 教育学部, 講師 (80432821)
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Keywords | ロービジョン / 弱視 / 漢字 / 教材 / 文字認知 |
Research Abstract |
本研究は、ロービジョンの視覚特性による漢字の認知の特性を明らかにし、ロービジョンの視覚特性に応じた漢字学習教材を作成するためのソフトウェア開発を目的にしている。教材の文字の大きさを推定する根拠として読書評価チャートに着目し、チャートと教材で使用する教科書体との関係を検討した。ロービジョンシミュレーション下の調査では、MNREAD-J読書評価チャートと同じポイント数と文字幅の教科書体の臨界文字サイズ(最大読書速度で読むことのできる最小の文字サイズ、以下CPS)は、チャートの書体よりも教科書体で0.1log小さかった。CPSはロービジョンの読書時の視覚特性を総合的に反映する値である。この成果は特殊教育学会で報告された^(1)。しかし、読書は特に左側の文字がそれに続く文字の認知に影響を与えるため、単一の文字で学習する漢字学習教材に近い、単一の文字での検討を行った。文字サイズと複雑さ(ひらがな、画数の少ない漢字、画数の多い漢字)を要因とし、音読潜時を従属変数としてCPS前後の文字認知の特性を調べた。晴眼状態、ロービジョンシミュレーション状態共にCPS以下で音読潜時の延長が認められた。ただし晴眼状態では複雑な文字の延長が際だっていたのに対し、ロービジョンシミュレーションでは文字の複雑さの全ての条件においてほぼ同様の延長が見られた。この結果は眼科紀要に投稿中である。ただしこの結果は漢字の認知の中でも識別に必要な能力が強く反映されると考えられる。 先行研究によると漢字の構造を確認できるサイズと、文字を認識できるサイズが異なることが指摘されている。このうち漢字学習では構造確認サイズが重要であると考えられる。そこで構造確認に適した線幅と画数の関係を明らかにするために、教材ソフトでの使用を想定している教科書体の線幅とドット数(文字の複雑さ)を要因にし、構造確認文字サイズと認識サイズを従属変数にした実験をロービジョンシミュレーション下で行った。結果、単純な文字は線が太い方が構造を確認しやすいが、複雑な漢字では線の太さの効果は認められなかった。構造確認サイズは、単純<中程度<複雑の順に増加していた。構造確認サイズとCPSの相関はr=.62から.98であり文字の複雑さや線の太さとCPSとの関係にはばらつきがあることも分かった。よって、MNREAD-Jとは別の方法で漢字の構造の複雑さを変えながら漢字の視知覚特性を調べ(以下、「漢字学習事前テスト」)、その結果に応じて文字サイズや線の太さを規定した漢字学習教材を作成することが妥当であることが示された。この結果は第6回情報科学技術フォーラムに投稿予定である。 現在、全国の盲学校と一部の弱視学級に漢字学習事前テストとその結果を踏まえて作成された漢字教材を利用した学習への研究協力依頼を行い、53名の協力児童を得ている。次年度は彼らと学校の協力を得て漢字学習前テストと教材の効果を確認したい。また教材で利用する書体をOEM提供してもらえるよう書体開発会社と打合せ中である。 (1)氏間和仁・小田浩一,明朝体と教科書体が読みに及ぼす影響,日本特殊教育学会第44回大会発表論文集,p.159,2006,於:群馬大学
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