2006 Fiscal Year Annual Research Report
天体表面の擾乱による恒星風駆動機構の理論的解明と、惑星形成などの諸問題への応用
Project/Area Number |
18840009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 建 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助手 (80431782)
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Keywords | 宇宙物理 / 計算物理 / 磁気流体 / 理論天文学 / 乱流 / 波動 / 恒星風 / 熱的不安定 |
Research Abstract |
平成18年度は、本申請課題に基づき、中小質量星の主系列段階から赤色巨星段階にいたるまでの恒星風の進化を、磁気流体計算により解明した。 中小質量の主系列星は、太陽のような高温のコロナを持っていることが知られている。また、主系列を離れた星も、ある程度の段階まではX線の放射が観測されており、同じくコロナを持っていると考えられている。しかし、進化が更に進み、星の半径が大きくなると、恒星外層のコロナが消失し、非常に大きな質量放出率の冷たい恒星風が吹くようになる。このようなコロナ/恒星風境界線(X線境界線)の起源は、これまで明らかになっていない。そこで私は、平成17年度までに構築した太陽風加速の磁気流体計算コードを改良することにより、赤色巨星風のシミュレーションを行い、このコロナ/恒星風境界線の解明に取り組んだ。 具体的には、恒星進化理論から見積もられる表面対流層の擾乱を、数値計算の内側境界である光球から与え、恒星の進化-ここでは半径の増大-に伴い、外層の物理状態がどのように変化するかを定量的に解析した。主系列星や進化がまださほど進んでいない準巨星では、外層には温度が100万度程度の高温コロナが定常的に存在し、そこから高速の恒星風が吹き出すことが確認された。しかしさらに進化が進み、半径が10倍程度になると、この定常コロナが消失する。これは、外層での重力弱くなるため、音速が脱出速度を超え、高温コロナを保持できなくなるためである。さらに面白いことに、外層は冷たい状態へ移行するのではなく、輻射冷却関数の熱的不安定領域の存在により、100万度近い高温層と1万度程度の低温層が共存した状態になることが判明した。このため、圧力平衡を満たすように外層中に密度差をも生じ、結果として恒星風はのっぺりとしているのではなく、多様な構造を持つことが示された。これは近年の赤色巨星風の観測を良く説明している。さらに、恒星風は主系列段階時のように表面付近から吹き出すのではなく、恒星表面の上に準静的な領域が存在し、恒星風の加速はかなり上空から開始されることが判明した。そのため、恒星風の速度-脱出速度に規定される-は表面の脱出速度よりも遅くなる。これも進化した恒星から吹き出す恒星風の傾向と一致している。 なお本結果は、2007年1月に米国天文学会機関紙(Astrophysical Journal)に査読の後受理され、2007年4月に掲載された。
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Research Products
(2 results)