Research Abstract |
本年度は,研究環境を充実させることと試料調整を行った。 1.研究環境の整備 TACを用いるタイブであるアナログ方式の陽電子消滅寿命測定装置をデジタルオシロスコープを用いる方式に拡張した。平行して,陽電子寿命データを取得・解析するためのソフト開発を行った。陽電子寿命測定では2本の光電子増倍管,コインシデンスドップラー拡がり測定では2つのゲルマニウム半導体検出器をひとつの試料に対してアラインメントする必要があるため,特殊な形状をした試料ホルダーを作製した。さらに,陽電子寿命とコインシデンスドップラー拡がりを同時に測定するための実験アラインメントの立ち上げを行った。 2.試料調整 毒性・性能・資源の観点から,Sn-Zn系,Sn-Ag(Cu)系,Sn-Bi系,Sn-In系を,環境低負荷型低融点合金の有力な候補材料と考えた。これらの中で,Sn-Pb共晶レベルで低い融点を達成する合金系はSn-Bi系,Sn-In系であるが,Inは稀少資源で高価である。よって,本研究では,Sn-Bi系合金を測定試料として選定した。電子プローブ微量分析法により組成はSn65Bi35at.%であること,DSC法により温度を136℃に上げると液相が現れることを確認した。 試料を125℃から3つの冷却速度:炉冷,-10^<-3>,-10^<-5>[℃s^<-1>]で室温に戻し,走査型電子顕微鏡(SEM)観察とXRDによりBi偏析を調べた。SEMによる後方散乱イメージ(BEI)から,炉冷試料では1μm程度の巨大なBi偏析が存在しているが,冷却速度を下げると,Bi偏析の成長が抑制されることを見出した。さらに,XRD測定により得られた回折線のうちBi(021)ピークの半値幅(FWHM)からScherrerの式を用いて,Bi結晶粒サイズを評価したところ,定性的にはSEM観察によるものと同様の傾向を示すことがわかった。
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