Research Abstract |
本研究の目的は,「温室地球」から「氷室地球」への転換点である始新世/漸新世(Eocene/Oligocene)境界(約3,300万年前;以降E/O境界)付近で,珪藻Chaetoceros属が渦鞭毛藻類に替わって沿岸生態系の主要な一次生産者と進化していった過程を解明することである. 申請者の研究により,ノルウェー海から得られたボーリングコアDSDP Site 338サンプル中のE/O境界付近で,Chaetoceros属休眠胞子の多様性と産出頻度が激増する「Chaetoceros爆発」イベントが起きたことが解明された.一方,世界中の渦鞭毛藻類の休眠シストは,逆に多様性と産出量が急減しており,沿岸域における主要一次生産者が渦鞭毛藻類からChaetoceros属に急激に交代した可能性が示唆された.また,申請者が参加した北極掘削航海(IODP302)における成果より,始新世後期に,これまで知られていなかった北極海にも氷が存在していたことが明らかになった(Moran, et. al.2006).さらに,Chaetoceros属休眠胞子以外の珪藻休眠胞子グループが渦鞭毛藻シストと同様に,この時代に世界的に急減(絶滅)している事象を明らかにした(Suto, et al.,印刷中).これらのことから,E/O境界付近で海洋海流構造と熱循環構造が季節ごとに安定的に変動する環境から,現在のペルー沖で見られるエルニーニョ・ラニーニャ変動のような数年〜数十年レベルで変化する環壌が作られていったことが示唆された. また,現在アフリカ西沖のE/O境界を含み,珪藻化石を豊富に含有するコアサンプル(DSDP Sites 366&369)を高時間分解能で分析することによって,本イベントの正確な年代と各タクサ間および酸素同位体イベントとの対応関係,さらにこれらのイベントが全世界的に同時に起きていたのかを明らかにするため研究を進めている.
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