Research Abstract |
斜面-河畔湿地-河川の水文学的な連結様式が降雨-流出応答の非線形性に与える影響を実証的に明らかにするために,次の目的を設定した. 1)斜面流出水量,河畔湿地の地下水位,及び河川水量の変化が降雨に対してどのくらいの遅れて現れるのか,また季節性はどのくらいあるのかということ(=水文特性)を明らかにする. 2)斜面,河畔湿地,河川の水文特性に基づき,これら三者の水文学的連結様式を明らかにする. 3)斜面,河畔湿地,河川の水文学的連結度合いによって,降雨-流出応答の非線形性を明らかにする。 4)斜面での水文観測が流域での河川水形成機構の理解にとってどの程度役立つのか,その限界と可能性について検討する. 各目的に沿って観測データを解析した結果は次の通りである。 1)斜面流出水(主として飽和地中流)量と河畔域の地下水位に大きな変化が生じる時刻は降雨ピークよりも10時間以上遅れた。この時,河川水量の変化は基底流量の変化として現れた。降雨-流出の応答特徴に季節性は見出せなかった。 2)降雨イベント後に着目すると,斜面から飽和地中流が発生している場合に限り,河川水量のレベルは高かった。またこの時,河畔湿地表流水の流量レベルも高かった。このことは,斜面,河畔湿地,河川が水文学的に連結するには,斜面での飽和地中流発生が不可欠であることを示唆している。 3)今回の研究では,降雨イベントが中小規模のものに限定されるため,斜面,河畔湿地,河川の水文学的連結度合いを定量化できなかった。しかし,三者が連結している時は,連結していない時と比べ,流出率と基底流量が大きいこと,及び河川水の溶存物質濃度が斜面流出水の影響を強く受けることがわかった。 4)河川水形成機構を理解する上で,斜面水文観測は空間代表性の問題を抱えているが,河川水と溶存物質の下流域への負荷量については水文過程をベースに評価することが可能となる。
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