Research Abstract |
1.摂餌生態調査および餌成分分析,および尿浸透圧との関連分析 まず,既存の報告より(1)マイルカ科(2)ナガスクジラ科(3)アカボウクジラ科に属する鯨類の餌の種類を特定した.その結果,順に(1)表層性魚類・頭足類,(2)甲殻類・表層性魚類,(3)深海性魚類・頭足類,が各々の代表的な餌内容であった.続いて,表層性魚類(サバ,アジ等9種),深海性魚類(ソコダラ類3種),頭足類(アオリイカ)について,水分含量および粗タンパク質量を計測したところ,水分とタンパク量との間には負の相関関係が認められ,表層性魚類は少水分・多タンパク,深海生魚類は多水分・少タンパクであった.さらに上記(1)〜(3)の各群に属する鯨種の尿浸透圧を測定もしくは既存の報告から調査したところ,表層性魚類を摂取するマイルカ科の鯨類の尿浸透圧は高く,深海生魚類を摂取するアカボウクジラ科の尿浸透圧が低いことが判明した.この結果は多水分の餌を食べる鯨類はより多くの水分を直接吸収できるため尿浸透圧が低くてもよいことを示すと解釈できる.つまり鯨類は餌から水分を直接的に得て体内浸透圧を調節している可能性が提示された. 2.消化管に局在するAQPの探索 鯨類が餌から直接水分を得ると考えられたため,消化管(特に水吸収作用の大きいと考えられる小腸と大腸)における水分摂取の機構を探ることを目的として,千葉県で大量座礁したカズハゴンドウ,および和歌山県で追込み漁により捕獲されたバンドウイルカの各腸を用いて,AQP1,3,4の局在を免疫組織化学染色により検出した.その結果,AQP1,3が小腸および大腸の吸収上皮細胞に分布し,一方AQP4は局在しないことが分かった.従って,腸ではAQP1,3等を介して餌から水分吸収を行う可能性が高いことが分かった.しかし,さらに網羅的に解析を行う必要があり,現在,1〜3胃を含めた消化管についてRT-PCR法によりAQPファミリーの発現確認を進めている. 3.腎臓尿細管でのAQP2局在および腎臓構造の確認 吸収した水分を効率よく使用する=水の再吸収の能力を探るため,水の再吸収に関与するAQP2に着目し,まず複数鯨種の腎臓での発現をRT-PCR法により確認した.次に免疫組織化学染色により,集合細管と集合管にAQP2が分布していることを示し,さらにその分布様式が1で分類した各群に属する鯨類間で異なることを見出した.すなわち,尿浸透圧の高い群ではAQP2を伴う集合管が細く密であり,尿浸透圧の低い群では太く粗であることを確かめた.また,腎臓の構造として,腎髄質の厚さが尿濃縮力の高さと関連のあることを見出した.なお,イオンチャンネルとの共発現については,免疫蛍光二重染色による検出を進めている.
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