2019 Fiscal Year Annual Research Report
Acquisition and maintenance of tolerance to combinational environmental syresses in seaweeds
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18F18388
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三上 浩司 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (40222319)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KUMARI PUJA 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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Keywords | 環境耐性能 / ウシケノリ / 低塩類濃度ストレス / ストレス応答 / 膜脂質脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの海藻は潮間帯に生息しており、常に温度変化や乾燥など種々の環境変化、すなわち環境ストレスにさらされている。そのため、海藻が正常な生育・生長を可能にするためには、環境変動に対する強い耐性を保持していることが必須となる。しかし、これまで実際の環境変動を想定した複数の環境ストレスに対する耐性獲得に関する研究は行われてこなかった。そのため、本研究は、紅藻ウシケノリにおける複合環境ストレス耐性能の獲得と維持の制御機構を、環境ストレス記憶と膜脂質脂肪酸組成あるいは遺伝子発現の変動との関連の検証を通して解明することを目的としている。 前年度の研究では、ウシケノリが強力な低塩類濃度体制を示し、他の海藻とは異なり淡水でも生育できることを見出した。その場合、細胞と色素体の形態変化が生じることも見出した。これらを踏まえ、今年度では淡水から海水へ環境が回復したときにどのような生理応答が引き起こされるのかを解析したところ、細胞と色素体の形態が元に戻った。従ってウシケノリは塩類濃度ストレスに対して形態的可塑性を示すことが明らかとなった。また、膜脂質脂肪酸の飽和度にも変化が見られ、ウシケノリが海水に適応するために生体膜の物性を変化させていることも確かめられた。 これらの知見はウシケノリの環境応答能の高さを示しており、ウシケノリが海藻の環境耐性機構を研究する上で重要なモデルとなることを示している。従って、海藻の環境耐性の制御機構の研究がウシケノリを用いることで飛躍的に進むと期待できる。そのため、今後は本研究の目的である海藻における複合環境耐性の獲得機構をウシケノリを用いて進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究により、ウシケノリが淡水中でも生育できる極めて高度な低塩類濃度ストレス耐性能を内在的に維持していることを明らかとした。今年度は、そのような栄養飢餓状態が解消されたとき、すなわち淡水から海水に打ちされたときの生理応答を解析した。 その結果、淡水中で見られた細胞と色素体の形態が正常に戻ることが確かめられ、ウシケノリが形態的な可塑性を発揮することで塩類濃度ストレスに応答・適応していることが明らかとなった。また、そのときは膜脂質脂肪酸の飽和化が促進され、あたかも塩ストレスに応答しているような組成変化を示した。淡水培養では膜脂質脂肪酸の組成に変化がなかったことから、ウシケノリの低塩類濃度と高塩類濃度のストレス応答における細胞膜の物性変化の関与の仕方は異なっていることが明らかとなった。 もう1つの課題であるウシケノリの高温ストレス記憶については、メタボローム解析により高温ストレスや高温記憶時における水溶性および脂溶性の物質の組成変化を明らかにすることができた。 以上の成果より、目標としていた栄養飢餓と高温ストレスの複合環境耐性の研究には到達できなかったものの、おおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度ウシケノリにおける栄養飢餓と高温ストレスに対する生理応答について知見が得られたため、最終年度では研究目標である栄養飢餓と高温ストレスの複合環境耐性能獲得に関する研究を進める。 淡水処理により栄養飢餓耐性を獲得したウシケノリが、高温に対しても耐性を示すかどうか、もしそうであれば逆に高温耐性を獲得した場合には栄養飢餓耐性をも得られるかどうかを明らかとする。この研究では、トランスクリプトーム解析およびメタボローム解析を基盤として、複合環境耐性能獲得に必要な生理状態の確立やそれを可能にする因子や遺伝子を明らかとすることを目指す。
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