2018 Fiscal Year Annual Research Report
金春禅竹作品の分析を基盤とした、能台本の構造解析――その積層性と多様性に注目して
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18F18723
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
児玉 竜一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10277783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BUGNE MAGALI 早稲田大学, 文学学術院, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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Keywords | 能楽 / 海外での能楽公演 / 海外での能楽研究 / 無形文化財 |
Outline of Annual Research Achievements |
世阿弥と金春禅竹の作品研究に基盤を置きつつ、能本の積層的構造の分析と、日本の芸能史全般に目配りをした研究大系を把握することを目標としている。初年度である本年は、日本の古典演劇全般の中で作品と作者をつなぐ形態のあり方について考察を深めた。また、無形の文化財として位置づけられる日本古典演劇の保護と保存形態について、文化財保護のケーススタディとしての分析を行い、それぞれを論文として発表するを得た。 このような調査・分析は、おのずから比較演劇的な視野の拡大につながり、具体的な調査対象としては、海外における演能が浮かび上がることとなった。第二次世界大戦後のパリでは、数多くの新しい芸術団体が誕生したが、その中の一つであるペルシーという一座が日本人と協力して能『羽衣』の上演を企てた。このような驚くべき計画を立てたのは二人のフランス人、エレーヌ・ジューグラリスとマルセル・ジューグラリスである。現在までの調査の範囲では、当該公演に関する資料は、静岡市立清水中央図書館、フランス国立図書館、大学間共同利用言語・文化図書館(別名BULAC)、ギメ東洋美術館の資料館そしてアルザス・欧州日本学研究所(別名CEEJA)に保存されている。3月のフランスへの出張を機会にフランス国立図書館と大学間共同利用言語・文化図書館とギメ東洋美術館の資料館に通って研究調査を行うことができた。 このほか、日本の能楽研究の最先端をゆくと考えられる論文の仏訳を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から目的としてきた、日本の演劇・芸能史全般に目を配った研究体制を整えつつあり、その成果として、能のみならず、演劇史全般に視野を放った作者研究の方途を把握しつつあること。それに則って研究成果を論文として発表することができていること。今後の研究の深化のために、諸国に散在する民俗芸能探訪にも出かけることができ、日本の演劇・芸能史全般に関する、上演についての生きた知識を吸収し得ていることなどを、研究がおおむね順調に進展している成果として挙げたい。 日本においてフランス語圏の研究者と交流する機会をも得て、日本国内およびフランスに向けても、多方向での成果発信をすることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、能本の構造分析にもとづく作品研究を深めることと、日本演劇史全般のなかでの能の位置づけについて、さらに他芸能との比較を中心に考察を深めることを目標とすることになろう。 フランス語圏への成果発信としては、今年度に引き続き、日本の能楽研究の最先端をゆく論文の翻訳によって、研究状況を知らしめるとともに、最新の研究成果を援用したフランス語訳による世阿弥能楽論の出版をめざすこととなる。すでに翻訳原稿は完成しており、出版に向けての作業を実際に行ってゆくのが、次年度の愚他的な目標となる。 各地の民俗芸能、とりわけ能の創成に関わる古芸能の探訪・調査も継続する予定であり、日本在住ならではの利点をいかして、生きた芸能の知識を吸収することに努めることになるであろう。
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