2018 Fiscal Year Annual Research Report
The philosophical significance of nothingness: Nihilism and its overcoming in modern Western and Japanese thought
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18F18785
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田口 茂 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50287950)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BALOGH LEHEL 北海道大学, 文学研究院, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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Keywords | ニヒリズム / 無 / 空 / 日本哲学 / 心理療法 / 内観療法 / 森田療法 / メンタルヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、西洋哲学、日本哲学のニヒリズム関連文献を精査し、比較検討を進めた。まず第一に、これまで研究してきた西洋におけるニヒリズムへの取り組みを整理した。現代に関しては、とりわけニーチェ、ハイデガー、サルトルにおけるニヒリズムと「無」へのアプローチを再整理し、論文にまとめる準備を行った。 この作業と平行して、近代日本哲学の研究を進めた。基本文献を揃え、その研究を開始した。18年度はまず西谷啓治のニヒリズム研究の検討を進め、The Self-Overcoming of Nihilism (1990, 『ニヒリズム』著作集第8巻の英訳) 、Religion and Nothingness (1982, 『宗教とは何か』の英訳)およびその他の関連文献の研究を進めた。 西田幾多郎の哲学についても、予備的な研究を進めた。An Inquiry into the Good (1990), Place and Dialectic (2012)を主に検討した。これらの文献研究と並行して、学内でのディスカッションを通して情報収集を行うとともに、多様な角度からこれまでの研究成果を吟味した。さらに、近代日本哲学におけるニヒリズムとの対決について、専門研究者とのディスカッションを行い、情報収集を行った。 本研究の重要な独自性を成す日本独自の心理療法(特に内観療法)の研究についても、2018年度は専門研究者や実践家への複数のインタビューを行った(奈良内観研修所、大阪内観研修所、大阪学院大学)。これらのインタビューは予想外の成果を挙げ、研究上大きな示唆を得た。この成果は、さらに調査を継続することによって、本研究の一つの柱となりうることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、慎重に吟味した上で、今後の研究に必要となる基礎的な文献を揃え、その読解・分析を開始した。ニヒリズム、日本哲学に関して、とりわけ西谷と西田の研究に関して、当初の計画通りの着実な成果が得られている。日本的な「無」と「空」の概念に関して、踏み込んだ理解が得られつつあり、それらとニヒリズムとの関係についても重要な洞察が得られつつある。 2018年度にとりわけ大きな(予想外の)進展が得られたのは、日本独自の心理療法である「内観療法」の研究に関してである。奈良内観研修所、大阪内観研修所、大阪学院大学における専門研究者・実践家へのインタビューは、内観療法について、その歴史、実践法、経験的知見、様々な事例に関する豊富な情報をもたらし、また関係者の経験にもとづく生き生きとした談話を通して、これらの心理療法の本質(とりわけその哲学的な本質)に関する重要な洞察を得ることができた。これは、当初の計画以上の成果であり、この成果に加えて、さらに2019年度も継続してインタビューおよび文献調査を行っていくなら、本研究の重要な柱となる知見や洞察が得られることは間違いない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで配備した文献の精密な分析を通して、ニヒリズムと日本的「無」及び「空」の概念の内的な思想的連関について、さらに踏み込んだ考察を行っていく。「無」や「空」は、西洋的文脈では単にネガティヴに捉えられることが多く、この意味で単純にネガティヴなものとしてのニヒリズムに結びつけられることが多かったが、本研究では、日本哲学において「無」や「空」がある意味で「ポジティヴに」扱われている点を重視し、この点こそが、ニヒリズムそのものを突き抜けることによってニヒリズムのネガティヴな面を克服するための鍵になると考えている。この点自体、これまでの哲学的ニヒリズム解釈においては十分に強調されていない新しい研究方向であると考えられるため、この方向をさらに推し進めていく。 本研究では、これに加えて、さらに本研究の独自性を増す研究成果が得られつつある。それは、当初は研究全体の4文の1程度の比重を占めるはずだった日本的心理療法に関する研究成果である。すでに内観療法に関するインタビューは大きな成果を挙げているが、この種のインタビュー調査(ならびに内観療法の手法そのものの体験調査)を継続するならば、さらに重要な成果が得られることが予想される。今後は森田療法に関しても同様のインタビュー調査・実地調査を進めていく予定である。これらの調査・研究の成果が大きく拡張・進展していった場合には、本研究をまとめる仕方で構想している書籍の執筆に関しても、当初の予定より日本的心理療法を大きく扱う形への変更を行う可能性がある。これは、本研究の目的をより根底的かつ広がりのある仕方で実現することを可能にするような変更であり、当初計画の変更というよりは、その予想外の深まりと考えた方がよい。
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Research Products
(6 results)