2018 Fiscal Year Annual Research Report
口腔内細菌叢の局在性を利用した法科学資料に付着するヒト唾液の由来推定に関する研究
Project/Area Number |
18H00497
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Research Institution | 神奈川県警察科学捜査研究所 |
Principal Investigator |
大田 隼 神奈川県警察科学捜査研究所, 法医科, 生物科学職
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Project Period (FY) |
2018
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Keywords | 唾液 / 細菌DNA / 由来推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
傷害や性犯罪事件等の鑑定実務において、資料に付着する唾液の由来が犯罪事実(咬む、舐める等)を認定する上で争点となる場合がある。しかしながら、現在汎用される唾液の同定法は唾液アミラーゼ活性を指標としているため、その区別は困難である。そこで、本研究では、ヒトの口腔内に普遍的に存在する口腔内細菌叢の局在性に着目し、生息域の異なる複数の細菌を同時に検出・比較することで、物体に付着する唾液の由来を推定する方法の開発を試みた。 唾液の由来推定に用いる細菌は、先行研究のあるStreptococcus salivariusおよびVeillonella atypicaをはじめ、Streptococcus oralis、Prevotella maculosa、Staphylococcus epidermidisおよびActinomyces israeliiを加えた計6種で検討を行った。ヒトの舌、歯、口唇から採取した唾液と滴下唾液を対照試料とし、布を用いて模擬試料を作製した。また、模擬試料を室温で約1ケ月間保存して陳旧試料とした。各試料から細菌DNAを抽出し、リアルタイムPCRにより総細菌DNAを定量して鋳型DNA量を標準化した後、6種の標的細菌DNAおよび総細菌DNAをPCR増幅した。続いて、PCR増幅産物を電気泳動し、各PCR増幅産物に由来するバンドの蛍光強度を定量化し、多変量解析した。 各試料について、6種の細菌DNAの存在比を主座標分析した結果、歯と口唇に由来する唾液の対照試料および模擬試料は、それぞれ類似した特徴を示したが、舌と滴下に由来する唾液の対照試料および模擬試料はともに同様の特徴を示した。また、陳旧試料の解析の結果、上記の特徴は変化し、いずれの対照試料においても陳旧試料との間に類似性は認められなかった。 本研究により、歯および口唇の接触に由来して付着した唾液については、他と識別できる可能性が示唆された。今後は、唾液が付着する物体の種類が解析に及ぼす影響等を検討し、実務適用可能な唾液の由来推定法の開発を試みる。一方、今回の検討では舌および滴下に由来する唾液については識別が困難であったため、標的とする細菌の種類を変更する等の検討を進める予定である。
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