2018 Fiscal Year Annual Research Report
舞踊の「芸術化」までの実証的検証:日仏伝統舞踊の性風俗からの分離
Project/Area Number |
18H00627
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安田 静 日本大学, 経済学部, 教授 (90339226)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武藤 大祐 群馬県立女子大学, 文学部, 准教授 (30513006)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 舞踊 / アボネ / シーズンチケット / 劇場 / ダンス / 花街 / 新舞踊運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、日本及びフランスの伝統舞踊について、長い間性風俗と結びつきながら今日では「芸術」として認められるに至った過程について調査し、いつ頃から、いかにして性風俗から離れたのかを明らかにすることにある。 ハイアートでありつつ、商品化された性の提供場所でもあった舞踊芸術の知られざる背景について(1)観客層の構成やその社交行動が時代によりどう変化したのか、(2)踊り手がいかにして「踊り子」から「芸術家」へとシフトし、脱エロス化を実現したのかを実証的に検証するため、研究代表者・安田は、パリ・オペラ座の重要な観客層であったアボネ(定期予約客)に注目して調査を進めた。また、今日の観客層とその受容についても実地調査するため、独、英、伊など欧州各国の代表的な劇場にも足を運んだ。すでに安田は2010年の論文で、20世紀前半にパリ・オペラ座で起こりつつあった重要な変化について明らかにしたが、今年度の出張で閲覧した現物資料の撮影により、そうした変化に関する実証的なデータが収集できた。以上の新しい知見については、調査結果の一部を京都で開催された国際学会で発表した。 一方、研究分担者・武藤は京都と東京を中心に花街での芸能に関する文献資料を調査・収集しつつ、大正期の新舞踊運動をめぐる報道や言説についても新聞・雑誌資料をもとに調査した。 また新舞踊運動にも間接的ながら影響を与えたルース・セント・デニスが、そのアジア巡演(1925~26年)において日本を含む各国で現地の舞踊の担い手とどのように接触したかについて、奈良で開催された舞踊学会で発表した。このアジア巡演については、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)所蔵の資料(手稿・手紙・写真など)を調査した。セント・デニスが役者や舞踊家と交流した事実はこれまでも語られてきたが、宴席などで芸者の踊りにも接していた事実を発見することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
西洋の古典舞踊(バレエ)は、歴史上のどの時点で風俗と明確に袂を分かち、芸術として社会的に認められるようになったのか、安田は20世紀を中心に調査を進めてきた。その調査対象は、パリ・オペラ座図書館所蔵の冊子・書籍状態の資料である。しかし、酸性紙の出納関連資料は痛みが激しく、通常はマイクロフィルムでの閲覧を強いられ、フィルムを巻き取りながらの作業では約1年分(600件分)の資料検索だけで4-5時間を要した。(ただし、数日に一度、少数の図書館司書に限り、オリジナルの閲覧を許可してもらえることがある。)結果として、限られた出張期間の間に資料の撮影が可能になる機会は極めて少なかった。従って、さらなる資料の撮影とともに、癖のある字体の手稿に対し、古文書解読の専門家を交えた精密な分析が必要である。 また、調査を進めてゆくに連れ、BNF本部からの所属替えでオペラ座図書館に赴任した司書の話から、20世紀の資料に限定しても、製本されていない多くの手書き資料については、CARANのみならず、オペラ座の手稿セクションにも散逸して収蔵されていることが明らかになった。そのため、現地での現物調査が必要になっており、当初よりも数多くの資料を閲覧する必要が生じている。今年度の出張期間内で、できる限り撮影作業を進めたい。 武藤は、花街での芸能の実践についての文献資料の調査、大正期の新舞踊運動をめぐる報道や言説の調査を進めている。2019年2月からの早稲田大学演劇博物館の長期休館にともなって一部作業が停滞しているものの、おおむね順調に進展している。 UCLA所蔵のルース・セント・デニスの一次資料については、その量が膨大であることと、手書き原稿の判読の困難さに苦慮したが、大まかな全体像は明らかにできたため、今後の作業の進展を期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
安田が担当するフランスの伝統舞踊(バレエ)については、20世紀のアボネ(定期予約客)の関連資料として、これまであまり研究者が取り上げてこなかったオペラ座の財務関連資料のうち、すでに撮影して日本に持ち帰った当時の領収書の控え(男女比および個人と法人の区別、称号、居住する住所、予約座席種、予約金額総額)の記載内容をもとに、さらに詳細な分析を行う。また、オペラ座でダンサーら実演家へ支払われていた報酬額や収支の明細、入場者数、演目の推移など、劇場のマネジメント全体に関わる資料についても、マイクロフィルムではなく可能な限り現物資料をもとに閲覧・撮影を行い、日本に持ち帰って分析を進める。 なお、オペラ座図書館所蔵対象、即ち書籍・冊子の形にまとめられたものに関しては、比較的整理された目録があるものの、手書きの書簡や書類については、オペラ座図書館(劇場支配人名で整理されたボックス)、CARAN(国立古文書館)、さらに国立図書館手稿セクションなど複数機関に散逸しているため、まずはそれら資料の所在確認が必須である。 一方、武藤は日本の花街および時期ごとの芸者の芸能の実態について新聞や雑誌資料の調査を進めるとともに、とりわけ歌舞伎の世界と花街をつなぐ存在である踊師匠たちの実態の洗い直しと、明治期の万博や内国博覧会とともに生じた花街芸能の活性化の動向を詳しく明らかにしていく。この作業は早稲田大学演劇博物館の2019年9月の再開とともに再び着手する。
|
Research Products
(2 results)