2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H00663
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
新谷 忠彦 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (90114800)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 敦士 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (20609094)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | センチュム語 / プーロン語 / ラグー語 / トタン語 / ドーコンチョン語 / パラウク・ワ語 / カヤン語 / モン・クメール語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の最大の目的は、これまで「タイ文化圏」における現地調査で大量に蓄積されてきた言語データについて、世界の研究者が無理なく使えるように整理し、公開を進めることである。その過程で補充調査が必要なものに関しては現地での補充調査を行い、更に、無文字言語の記述に必要な三点セット(語彙集、文法書、口述テキスト)をそろえるための基盤を形成することにも力点を置いている。 上記の目的のため、代表者の新谷はセンチュム語、プーロン語、ラグー語、トタン語、ドーコンチョン語の5種類の言語データを整理し公開した。いずれも2000語ほどの語彙資料と若干の文法事項についての資料が含まれているものである。また、統一したコード番号が付けられており、比較研究には極めて都合の良い形になっている。センチュム語はモン・クメール系の言語で、現在はミャンマーのチェントゥンで一つの村が存在するだけであり、消滅に近い言語である。この言語についての既存の資料としては100年以上前に出された200語ほどの語彙資料があるのみである。本資料の公開によって、この言語が声調言語であることが判明した。このほかの4種類の言語はいずれもカレン語群に属するカヤン系の少数言語で、これまで名前さえ全く知られていなかった言語である。話し手の数は100人に満たないものから数百人規模のもので、いずれ消滅の可能性が高い言語である。 一方、分担者の山田はパラウク・ワ語の文法書を出版し、「タイ文化圏」のモン・クメール系少数言語の文法研究に新たな一歩を印すことになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでまともなデータのなかった1言語と、全く知られていなかった4言語の合計5言語の語彙資料を整理・公開することができた。また、この地域のモン・クメール系言語で新たに声調言語が存在することが確認できたことも大きな成果である。 「タイ文化圏」は政治的・地理的な悪条件から、言語研究の空白地帯であり、全く知られていない言語がまだたくさん存在する。このような状況の中で、パラウク・ワ語の文法書が出版できたことは大きな成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本的に初年度・第二年度と変わることなく、言語データの整理・公開とそのために必要な現地調査を行うことに努める。こうした活動を進めることによって5言語程度の未知の言語データの公開を進めたい。さらに、未知の言語が集中するカヤン系言語について、この言語群のデータ収集に関して世界で圧倒的な地位にあることから、世界の研究者からの要請が強いことに鑑み、全体を簡潔な形でまとめておくことも必要ではないかと考えている。 また、「タイ文化圏」にはモン・クメール系の小さなグループが各地に散在しているが、彼らの言語が、周辺民族の文化や、国家という政治的な影響でどのように変容しているかにも注目しながら調査を進めたい。 ただ、2020年当初からの新型コロナウィルスによる肺炎の世界的な流行で、現時点では「タイ文化圏」での現地調査は極めて難しい状況にある。状況を注視しながら慎重に現地調査の可能性を探る一方で、これまでに蓄積されたデータの整理・公開は、補充調査の必要性のないものもたくさんあり、こうした言語から順次公開を進めていく。
|