2018 Fiscal Year Annual Research Report
モンゴル帝国時代の仏像新発見に伴う「草原のシルクロード」の拠点に関する総合的研究
Project/Area Number |
18H00726
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
村岡 倫 龍谷大学, 文学部, 教授 (30288633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 宏節 青山学院女子短期大学, 現代教養学科, 助教 (10609374)
白石 典之 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (40262422)
藤原 崇人 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (50351250)
松川 節 大谷大学, 社会学部, 教授 (60321064)
中田 裕子 龍谷大学, 農学部, 講師 (70598987)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 草原のシルクロード / モンゴル帝国 / 仏教 / ハルザン・シレグ遺跡 / 釈迦院遺跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまでに長くモンゴル国で行ってきた日本・モンゴル共同プロジェクトによる遺跡調査・研究の成果に基づくものであり、かつてプロジェクトで発見したモンゴル帝国時代の重要な軍事拠点、ハルザン・シレグ遺跡を研究対象の中心とする。2016年・17年の本遺跡の発掘調査で、モンゴル帝国時代の仏像の一部とそれを安置した建造物を発見したが、本研究は、さらなる発掘によって出土した遺物を分析・研究し、この地を拠点とする「草原のシルクロード」の意義を解明するものである。 研究期間1年目の2018年9月の発掘調査では、チベット文字が書かれた牛の肩甲骨を発見した。占いに使われたと考えられ、解読を進めている。また、白石典之が骨の放射性炭素年代測定を行ない、17世紀以降のものであることを明らかにした。本遺跡がモンゴル帝国時代以降も、「草原のシルクロード」の拠点として機能していたことが明らかとなった。ハルザン・シレグ遺跡の使用期間は重要な研究課題であり、白石を中心に他の出土した遺物を実見し、整理を進めている。 16年に出土した仏像は、18年9月にモンゴル国立歴史博物館で他の出土物と共に展示会を行い、モンゴル西部現地の博物館に返還寄贈した。貴重な文化遺産が保護され、現地に寄贈されたことは、本研究期間内における大きな意義の一つである。その他、昨年度の調査では、唐代のトルコ系僕固部の首領、乙突の神道碑の再発見、モンゴル帝国時代の仏教寺院である釈迦院遺跡の調査など、「草原のシルクロード」に関連する調査ができた。今後の研究につながると考えている。 また、研究成果については、日本、モンゴルで積極的に発信した。11月には村岡倫が龍谷大学で学生にむけて研究成果を紹介し、12月には国際シンポジウムで成果の一部を写真等で展示、2019年3月には中田裕子が学会で研究発表、5月には村岡がモンゴル国立大学で講演をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間1年目の2018年には、3週間のモンゴル研究者たちによる発掘調査、日本側のメンバーはハルザン・シレグ遺跡や周辺地域を調査することを計画した。本研究は現地調査を重要視し、原則としてメンバー全員が現地に赴き、文献に偏らない総合的な研究を進めるとしたが、大学業務との関係や費用の問題で、研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者10人中6人の参加とどまった。しかし、「草原のシルクロード」に関連する新たな発見、新たな重要拠点の調査もでき、また、採取した遺物の年代測定の結果、モンゴル帝国時代に作られたものが多く、さらにはそれ以降の年代を示す遺物もあり、モンゴル帝国の時代にこの地で行なわれた東西文化の交流の諸相の一端を解明する重要なデータが得られ、それらの成果は調査のできなかったメンバーも共有できている。 本年度中にメンバー全員が揃って研究集会を行うこと、成果をニューズレターとして発行することは費用の関係で実現できなかったが、研究代表者と同じ関西在住のメンバーを中心に普段から話し合い、メールでの情報交換・意見交換などは積極的に行った。学界や一般に還元することについても、積極的に研究成果を発信することができた。村岡は、中日文化センターの一般向けの講座において、今回の成果について講演し、11月16日の龍谷大学のご命日法要の法話の中でもその意義を紹介し、11月30日の「龍谷大学東洋史学研究会大会」で研究成果を発表した。12月22日に開催された国際シンポジウム「アジアの仏教ソーシャルワーク」では、調査の成果を写真等で展示するなど、各方面で関心を高めた。中田も、2019年3月の「遼金西夏史研究会」の研究発表で、本研究の調査成果を報告し、他大学の研究者たちの好評を得た。さらに村岡は、5月にモンゴル国立大学で研究成果を講演した。 以上のことから、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度も9月に現地調査を行うが、18年に簡単な実地調査にとどめた釈迦院遺跡に関して、中規模程度の発掘を行う。ハルザン・シレグ遺跡が仏像の一部のみの発見だったが、釈迦院遺跡には、モンゴル帝国時代に仏教寺院が存在したことは、「釈迦院碑記」の発見とその解読により明確となっている。しかし、これまで、十分は考古学的な調査が行われたことはなかった。その建立は1250年代であり、ハルザン・シレグ遺跡の仏像と同じく、モンゴルに仏教が浸透する以前のものとして注目される。我々は、モンゴル帝国時代以前の契丹時代の仏教との関連を想定している。研究分担者の藤原崇人は、契丹仏教史の専門家で、『契丹仏教史の研究』(法藏館、2015年)を著しており、研究協力者の王達来(内蒙古大学)は契丹時代の考古学の専門家である。彼らはそれぞれの専門から釈迦院遺跡を検討する。 また、釈迦院遺跡はモンゴル北部に位置しており、今回の調査により、本科研で課題としている「草原のシルクロード」という観点から、西部のハルザン・シレグ遺跡から北部の釈迦院遺跡にかけての交通路や仏教伝播の様相を研究する手がかりを得たい。研究協力者の白玉冬(遼寧師範大学)は契丹時代の交通路の専門家であり、契丹時代からモンゴル帝国時代にかけての交通路、仏教の伝来に関して考察する。 今年度も、講演会は講座、研究会での発表などを積極的に行い、学界や一般に研究成果を還元し、さらに、18年度に実現できなかったメンバー全員による研究集会の開催、ニューズレターの発行を行い、研究成果発信の機会を増やす。そして、最終年度の2020年度は、発掘を含めた現地調査は補完的なものにとどめ、12月には、国際シンポジウムを開催し、年度末に研究期間の成果として研究報告書刊行を目指す。
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Research Products
(11 results)