2020 Fiscal Year Annual Research Report
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18H00751
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
難波 洋三 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (70189223)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森岡 秀人 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 客員研究員 (20646400)
吉田 広 愛媛大学, ミュージアム, 准教授 (30263057)
石橋 茂登 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 飛鳥資料館, 室長 (90311216)
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (10570129)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 銅鐸 / 松帆銅鐸 / ICP分析 / 鉛同位体比 / 弥生時代 / 青銅器 / 東奈良遺跡 / 持田古墳 |
Outline of Annual Research Achievements |
一部執筆者の原稿の提出遅延により、『松帆銅鐸調査報告書Ⅰ』の刊行は大きく後れ、2020年10月となった。この遅延に伴い、10月まで報告書作成の支援を難波と研究分担者の森岡が中心となって引き続きおこなうことになった。本年度の後半には『松帆銅鐸調査報告書Ⅱ』の刊行に向けて、難波と研究分担者の森岡・吉田は淡路出土あるいは淡路出土の伝承がある銅鐸・銅剣・銅戈などの調査を実施し、報告書に掲載する原稿を作成した。 また、銅鏡や青銅器のICP分析と鉛同位体比分析を昨年度から継続して実施するとともに、これらの分析結果の評価と検討を難波がおこなった。中でも、大阪府茨木市東奈良遺跡出土小銅鐸に関しては興味深い成果を得た。この小銅鐸をめぐっては、銅鐸の祖型か銅鐸の成立後に製作されたものかの議論があり、銅鐸の成立過程やその背景を検討する上で非常に重要な資料となっている。昨年度に実施したこの小銅鐸のICP分析で、鉛濃度が非常に低いことと特殊な産地の銅を使用した可能性があることが判明し、最古段階の銅鐸とは青銅の組成や原料金属の産地に相違があることを指摘できた。また、この小銅鐸は銅鐸よりも低レベルの祭器として製作・使用・廃棄されたものであり、側面形で身に顕著な内湾が観察できる点は、これを銅鐸の祖型とする立場では説明が困難であることなどを明確にした。以上の成果は『茨木市立文化財資料館館報』第6号に論文として発表した。 辰馬考古資料館蔵で宮崎県高鍋町持田古墳群出土の、同じ工人集団が連続して鋳造した倭製鏡5面については、昨年度、3面のICP分析と鉛同位体比分析を併せて実施したが、今年度は残る2面の分析をおこなった。この分析結果の報告は、『辰馬考古資料館考古学研究紀要』の最新号に掲載する予定であり、今後、古墳時代の青銅器の原料金属の流通状況を検討するための重要な情報となると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
『松帆銅鐸調査報告書Ⅰ』の刊行に、研究代表者の難波と研究分担者の森岡が積極的に関与し、精度の高い報告書の完成に大きく寄与できた。また、『松帆銅鐸調査報告書Ⅱ』の刊行に向け、淡路出土の銅鐸や青銅製武器形祭器の調査・研究や、その成果を踏まえた原稿の作成を、順調に進めることができた。 その位置付けについて議論があり、銅鐸の起源論や製作開始年代論にも重要な影響を与えている大阪府茨木市東奈良遺跡出土の小銅鐸については、昨年度にICP分析と鉛同位体比分析を併せて実施したが、今年度はその成果の検討と、この小銅鐸についての型式学的検討を難波がおこない、その位置づけを明確にし、研究成果を論文の形で公表できた。 また、これまで古墳時代の青銅器についてICP分析と鉛同位体比分析を併せて実施した例はなかったが、同じ工人集団が連続して製作したと考えられる持田古墳群出土の倭製鏡5面のうち、昨年度の3面に続き、残る2面についてもICP分析と鉛同位体比分析を実施し、古墳時代の青銅器の原料金属の流通状況を解明する重要な基礎データを入手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
『松帆銅鐸調査報告書Ⅱ』の刊行に向けて、難波・森岡・吉田を中心に、南あわじ市教育委員会の補助・助言を続けるとともに、『松帆銅鐸調査報告書Ⅲ』の刊行の準備を進める。また、難波・森岡・石橋は、新段階の銅鐸の多数埋納例である滋賀県野洲市大岩山遺跡出土銅鐸についての調査と分析を進めるとともに、守山市伊勢遺跡をはじめとする近隣の重要遺跡との関係を有機的に検討する。その成果は、野洲市立歴史民俗博物館で今年度秋に開催される銅鐸展の図録などに論考として掲載する予定である。 また、弥生時代と古墳時代の青銅製品と中国の同時期の青銅製品についてのICP分析と鉛同位体比分析を継続して実施し、中国を核とする東アジア世界での青銅製品の原料金属の流通を、広域にわたって経時的に明らかにするための基礎データの充実に努める。この成果は、難波が中心となって進めている、兵庫県立考古博物館所蔵の千石コレクションの銅鏡をはじめとする青銅製品の化学分析の成果と併せて検討することで、分析の深化を図る。
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