2021 Fiscal Year Annual Research Report
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18H00751
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
難波 洋三 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 客員研究員 (70189223)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森岡 秀人 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 客員研究員 (20646400)
吉田 広 愛媛大学, ミュージアム, 教授 (30263057)
石橋 茂登 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 飛鳥資料館, 室長 (90311216)
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (10570129)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 銅鐸 / 松帆遺跡 / ICP分析 / 鉛同位体比分析 / 東海派 / 千石コレクション |
Outline of Annual Research Achievements |
①2022年3月の『松帆銅鐸調査報告書Ⅱ』の刊行に向けて、研究代表者の難波と研究分担者の森岡・吉田は、淡路出土あるいは淡路出土の伝承がある銅鐸・銅剣・銅戈などの調査を実施し、報告書に掲載する原稿を作成した。しかし、この報告書の他の分担執筆者1名の原稿提出が大幅に遅れているため、報告書はまだ未刊のままである。 ②難波は、野洲市歴史民俗資料館の令和3年度秋期企画展「大岩山銅鐸の形成」の企画立案と図録作成に協力するとともに、図録掲載の論考「突線鈕1・2式銅鐸とその相互関係」を執筆し、関連講演会においてその概要を発表した。この論考で、近畿式・三遠式銅鐸成立直前の銅鐸に関する従来の研究を総括し問題点を明らかにするとともに、この段階の銅鐸群の相互関係を解明し、各種の突線の成立過程にも言及した。 ③兵庫県立考古博物館所蔵の千石コレクション銅鏡のICP分析と鉛同位体比分析を核とし、難波が中心となって実施した日鉄テクノロジー株式会社と兵庫県立考古博物館の共同研究の報告書を、8月に刊行した。本年度の当研究では、千石コレクションの南北朝時代から初唐期にかけての銅鏡6面のICP分析と銅鏡8面の鉛同位体比分析を追加実施し、この時期の銅鏡の多くにミシシッピバレー型の鉛が使用されていること、隋から初唐期へと銅鏡の錫濃度が高くなることなどを明確にできた。隋唐鏡の精度の高い科学分析はこれまでなされていなかったが、この一連の研究で中国を核とする東アジア世界における青銅器の原料金属の流通の実態を、経時的に明らかにする見通しが立った。 ④難波は、スウェーデン・イェーテボリ博物館所蔵銅鐸の位置づけについての論文を執筆し、『茨木市立文化財資料館館報』第7号に掲載した。この銅鐸は、外縁付鈕2式の摂津系の銅鐸から東海派の銅鐸が成立し、さらにこれが三遠式銅鐸の母体となる経緯を明確にする上で、非常に重要な新資料である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、出張による調査が困難な状況ではあったが、野洲市歴史民俗博物館において難波のこれまでの研究を基礎として銅鐸展が開催され、研究の社会的還元を果たせたこと、この企画展の図録に研究結果を論考として発表できたことは、本年度の特に重要な成果と評価できるであろう。 また、兵庫県立考古博物館所蔵の千石コレクションの銅鏡について、難波が中心となって実施した日鉄テクノロジー株式会社と兵庫県立考古博物館の近年の共同研究の成果を、報告書として刊行できた。この研究で、精度の高い科学分析がこれまでなされていなかった隋唐時代の銅鏡に関して、隋から初唐頃にはミシシッピバレー型の鉛が広く使用されていたこと、隋から盛唐期へと銅鏡の錫濃度が高くなり、その後錫濃度が低下することなどを予見できたが、本年度に実施した千石コレクションの銅鏡6面のICP分析と8面の鉛同位体比分析により、この予見を裏付ける分析結果をさらに得ることができたことも、重要な成果である。 このほか、2021年春にWeb上で閲覧できるようになった、東洋文庫所蔵の梅原考古資料の銅鐸関係資料をすべて検討し、これまでその実態が知られていなかったスウェーデン・イェーテボリ博物館所蔵銅鐸の関連資料を紹介するとともに、この銅鐸の位置づけを明確にし、この銅鐸が外縁付鈕2式の摂津系銅鐸と、三遠式銅鐸の母体となる扁平鈕式新段階から突線鈕1式にかけて作られた東海派銅鐸の、密接な関係を裏付ける重要な資料であることを初めて明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
『松帆銅鐸調査報告書Ⅱ』および『松帆銅鐸調査報告書Ⅲ』の刊行に向けて、関係資料の調査や、松帆銅鐸自体の調査をさらに深化させる。 難波による銅鐸の鋳掛けと補刻に関するこれまでの調査データを整理し、これらの出現と経時的変化などについて、再検討をする。 中国を核とする東アジア世界における青銅器の原料金属の流通状況の検討は、これまで漢代を中心になされてきたが、それ以外の時代の青銅器についてはICP分析や鉛同位体比分析を実施した例がほとんどなく、青銅器の原料金属産地の変化の全体像は不明なままであった。このような状況下、隋唐時代については、前記の難波を中心として実施した日鉄テクノロジー株式会社と兵庫県考古博物館の共同研究および当研究による千石コレクション銅鏡のICP分析と鉛同位体比分析によって、その実態が初めて明らかになった。しかし、秦以前の銅鏡などについては、まだほとんど不明なままである。本年度は、兵庫県考古博物館所蔵の千石コレクション銅鏡の科学分析をさらに実施して、中国戦国時代の銅鏡などについても、原料金属の流通状況を検討する。 難波がこれまでの研究で作成・蒐集した写真・拓本・拓本・観察などの整理作業を進める。
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