2019 Fiscal Year Annual Research Report
元寇沈船保存処理の研究-トレハロース含浸処理の実施と錆化抑止効果の究明
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18H00759
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Research Institution | Osaka City Cultural Properties Association |
Principal Investigator |
伊藤 幸司 一般財団法人大阪市文化財協会, 学芸部門, 室長 (50344354)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トレハロース / 含浸処理 / 元寇沈没船 / 錆化抑止 / 太陽熱集熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在海底で保存されている元寇沈船の引き上げ・保存処理を実現するために必要な保存科学的研究を行なうもので、次の2つを目的として研究を進めている。 1.太陽熱集熱装置を製作し、海底遺跡出土大型木器の保存処理を実施する。 2.トレハロースによる海底遺跡出土木器の鉄部錆化抑止のメカニズムを解明する。 1は、初年度におこなった松浦市立鷹島埋蔵文化財センターの4mの含浸処理槽に適合させるための熱量計算等に基づき装置を設計し、製作した。その後、同センターに設置し試運転を開始している。2は、トレハロース法を用いた場合に劣化が生じない原因を究明すべく、初年度に引き続き作成した粉体圧縮試料を様々な温度・湿度条件下で劣化させる実験等を行なった。これらの研究成果については、日本文化財科学会(於:東京芸術大学)、東アジア文化遺産保存国際シンポジウム(於:韓国大田)、WOAM2019(於:イギリス ポーツマス)で発表を、トレハロース含浸処理法研究会(於:大阪市文化財協会)では実習を含む研修を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度に予定していた、太陽熱集熱式含浸処理装置の製作、設置については、順調に進めることができている。試運転を開始しているが、当初の予想を上回る結果が得られており、近い将来、海底遺跡出土木製文化財の保存処理を推し進めていく上で、非常に重要な意味を持つ成果である。 また、トレハロース含浸処理法について、国内外の保存処理担当者からの要請が高まっている。これまで継続して日本文化財科学会やトレハロース含浸処理法研究会を通じ、研究成果を広く公開してきたことが実を結んでいる。今後も情報をなるべく早くオープンにし、多くの方に実践していただくことも当研究の大きな目的であり、当初の予定以上に達成できていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.太陽熱集熱装置を製作し、海底遺跡出土大型木器を想定した保存処理を実施する。 今年度は、松浦市埋蔵文化財センターに設置した含浸処理装置内の温度の安定性や消費電力の測定、制御機器の調整など、実際の保存処理に向けたデータの収集を行なう。その後、実資料に対する保存処理を開始する。 2.トレハロースによる海底遺跡出土木器の鉄部錆化抑止のメカニズムを解明する。 昨年度に引き続き、トレハロース法を用いた場合に劣化が生じない原因を、実験と分析を通じて究明する。今年度は、これまでの分析結果からトレハロースが持つ鉄の錆化を抑止するメカニズムに迫る。 昨年度までの研究成果については、日本文化財科学会にて発表予定である。
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Research Products
(6 results)