2019 Fiscal Year Annual Research Report
大規模自然災害からの生活再建─被災者の移住と社会的紐帯に関する文化人類学的研究
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18H00777
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
李 仁子 東北大学, 教育学研究科, 准教授 (80322981)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金谷 美和 国際ファッション専門職大学, 大阪ファッションクリエイション・ビジネス学科, 准教授 (90423037)
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 教授 (30382005)
佐藤 悦子 東北大学, 教育学研究科, 博士研究員 (70749415)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 1東日本大震災 / 津波 / 移住 / 生活再建 / 社会的紐帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続いてH団地に入居した旧G町の元住民らへの聞き取り調査を行うとともに、従前より調査を進めてきた旧K町の元住民たちを対象に、さらに踏み込んだ聞き取り調査を行った。39回の現地調査、2回の共同研究会、学会や国際シンポジウムでの発表を行った。また、研究活動の一環として、調査地の住民と協働で稲作を始めたことも特筆に値する。H団地から3キロほどの地点で一年を通して稲作の全プロセスに関わることで、4つのフェーズの第一段階である震災前の彼らの社会的紐帯や、復興団地や自力再建後の変化などが、より緻密に、また奥行きをもって見えてきた。米作りをすることで、H団地の女性たちと6次産業について共に考える機会も得られた。 H団地には、旧K町出身の152戸、旧G町の202戸、宅地調整をしている。入居は、2019年5月にはほとんど終了した。調査の過程で浮き彫りになったのは、両町の違いである。G町はもともと浜(集落)ごとの独自性が強い地域であったため、H団地への入居においてもその影響が現れ、H団地で新しく作られた町内会での調整にも時間がかかることが分かった。それに比べて、宅地調整の段階から旧K町の元住民たちは、集落ごとに住まいを決めていたため、旧村落を団地に移したかのような家並となり、町内会での調整も順調に進んだ。このことは、H団地での生活が続くにつれ、両町の人たちの社会的紐帯が異なる方向に進む可能性を示唆する。 金谷は、引き続き手仕事を通じた女性たちのつながりについて調査した。特に、移住先の地元が先導して開かれた革細工の集まりに注目し、東京から指導にきていたボランティアらへの聞き取り調査を李とともに行った。被災地の手仕事は、なかなか収入には結びつかないことや、ボランティアと被災者、またその間をつなげてくれる地元のプロジェクトリーダの介入が彼らの社会的紐帯に大きく影響することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査地域で多様な活動を行うことを通して、地域との協力体制がより強化され、その結果、聞き取り調査や参与観察においても信頼性のより高いデータを得ることができた。8月のお盆には、H団地の夏祭りを住民と共に企画し、盆踊りを開催した。また、田んぼでの稲作は、今すぐ論文や研究発表などに直結しないものの、文化人類学のフィールドワークの手法に新たな地平を開くことにつながると確信している。 李と金谷は、日本文化人類学会で昨年からの調査をもとに発表を行い、被災地研究を行う研究者との交流を深める機会となった。また、李は中国の復旦大学の韓国学センターが主催した国際シンポジウムに参加し、研究成果を発表した。金谷は、災害地域の手仕事についての論文を発表した。 ただ、ここにきて一つ課題として浮かび上がったのは、2019年11月に中国湖北省武漢市で発生が確認されて以降、世界的に流行が拡大した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の問題である。2月下旬から日本でも感染拡大防止のため研究活動に制限がかかり、二階堂は、3月に予定していた李との共同調査を行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目に入る来年度の研究は、引き続き「大規模自然災害からの生活再建は、被災者の移住に伴う社会的紐帯がどのように変わり生成されるのか」について現地調査を進める。特にH団地の旧K地区と旧G地区の比較研究を進めるために、データの整理が必要である。聞き取り調査の際に、インフォーマントの一人一人の状況(被災についての傷の癒し具合)が異なるため、一律に4つのフェーズを時系列で聞き取ることを避けるケースも多かった。そのため、人によっては、あるフェーズの情報が抜けている場合がある。そのことに留意しつつデータを整える作業をしながら、追加の聞き取り調査を李と佐藤で行っていく予定である。 また、これまではH団地に集中して調査を行ったが、今後は復興住宅団地以外の地区に自力再建の形ではいった旧K地区の人たちの状況を少しずつ明らかにしていく。同時一斉に新しい地域を作っていくH団地移住者たちとは異なり、すでにあった地域に新参者として入る被災者たちの社会的紐帯の作り方に注目する。
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Research Products
(2 results)