2020 Fiscal Year Annual Research Report
大規模自然災害からの生活再建─被災者の移住と社会的紐帯に関する文化人類学的研究
Project/Area Number |
18H00777
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
李 仁子 東北大学, 教育学研究科, 准教授 (80322981)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金谷 美和 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 准教授 (90423037)
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 教授 (30382005)
佐藤 悦子 東北大学, 教育学研究科, 博士研究員 (70749415)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 津波 / 移住 / 生活再建 / 社会的紐帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も、昨年度に引き続いて、石巻市内陸部に整備された大規模な復興住宅団地に入居した被災者への聞き取り調査を行った。住民のほとんどが親族や隣人を津波で失っているため、特に被災以前の社会的紐帯とその直後の変化を聞き取る際には別段の配慮が必要なのだが、昨年度末から拡大した新型コロナ感染症はそうしたデリケートな調査にとって大きな障碍となった。 コロナ禍により他の調査活動も影響を受けた。旧来の集落のお祭りや、昨年度に復興団地で新設された盆踊り、子供会、クリスマス会などの催しが中止になり、町内会の集会場等が使えず老人クラブの活動や被災者のためのボランティア活動も中止になった。新たな居住地での地縁に基づく社会的紐帯の生成・再編というフェーズを参与観察できると期待していたが、催事の準備も含めてすべての活動や集いが停止し、結果的には新たにきざした社会的紐帯の芽が阻害される局面をリアルタイムで記録することになった。 本年度はまた、研究協力者が参加するオンライン研究会を月に一回開いて、これまでの調査データの検討を行うと同時に、日本の伝統的な村落構造や集団・組織の機能、宗教的な活動やしきたりなどに関する数多の先行研究を全員でレビューする作業を行った。そこからはっきりと浮かび上がったのは、伝統的な活動や旧来の組織を堅持している集落ほど津波による死者が少なく、被災地から移住した後も社会的紐帯に恵まれている傾向が見られる、ということであった。 昨年度から始めた稲作の参与観察は、コロナ禍で共同作業の部分は減らしたものの今年度も継続しており、地域集落への理解を深めるよすがとなっている。また、今年度からは、自分たちが養殖した水産物を加工販売する6次産業にも注目し、以前より重要なインフォーマントであった女性たちが起業した事業の活動をフォローしながら、生活再建の新たな局面を記録することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は参与観察を行うことができた、復興団地等での様々な催しや集まりがコロナ禍で中止になり、住民たちとふれあう機会も激減した。また、町内会の役員会などの定期的な会合もすべて中止になり、定点観測的な参与観察も困難になった。聞き取り調査も、高齢者を中心に調査時期を見極める必要があり、当初の予定通りにスムーズに進んでいるとは言い難い。よって、調査の進捗という面から見れば、やや遅れていると言える。 こうした遅れは、計画立案時には想定できなかったコロナ禍のもたらしたマイナス面である。しかし、現地調査以外の面に目を向けると、例えばオンライン研究会で先行研究に関するレビューを時間をかけて共同で行うことにより、被災地やそこでの被災以前の暮らしや社会的紐帯をより深く理解できるようになったことや、コロナ禍がもたらした多様な障碍が被災者の生活再建や社会的紐帯の再編に及ぼした影響という想定外の事態が、研究テーマをいっそう深化させてくれるなど、プラスの側面もあった。研究計画は予定より遅れているが、研究内容は深まっている面もあると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査研究は、主に復興住宅団地に入居した被災者への聞き取りや団地での催しや会合における参与観察に注力してきたが、来年度の調査研究は、復興住宅団地以外の地区に自力再建の形で転居した被災者への聞き取り調査に重点を移す。一斉に新しい団地に移り住んで地域コミュニティを形成しようとする復興団地入居者とは異なり、すでにあった地域コミュニティに新参者として入った被災者たちの社会的紐帯の作り方を明らかにしていく。 同時に、これまでの調査データを精査分析し、各フェーズごとの社会的紐帯のありようを類別していく作業に取り掛かる。その過程で、必要に応じて追加の聞き取り調査も行う予定である。 また、研究推進において一つ重要な変更を行う。研究開始当初はなるべく多くの世帯で聞き取り調査を行うことを目標にしていたが、調査対象とする世帯数をある程度絞り込むことにした。新型コロナウィルスの広がりとその社会的影響が第一の理由であるが、これまでの調査結果から、世帯の一人一人の被災体験や社会的紐帯の変遷をよりいっそう詳細かつ丹念に追うことの方が、本研究の質的向上を図る上で重要だとの結論に改めて至ったからである。
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Research Products
(12 results)