2018 Fiscal Year Annual Research Report
Anthropological Studies on Memory of Diaspora and Media for Remembering
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18H00783
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩谷 彩子 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (90469205)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇田川 彩 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (20814031)
滝口 幸子 城西国際大学, メディア学部, 助教 (30615430)
左地 亮子 (野呂) 東洋大学, 社会学部, 准教授 (50771416)
黒田 晴之 松山大学, 経済学部, 教授 (80320109)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ディアスポラ / 記憶 / 想起 / 媒体 / ジプシー / ユダヤ人 |
Outline of Annual Research Achievements |
3回の研究会と2回の公開シンポジウム/セッションを開催して問題関心を広く共有するとともに、学術誌『コンタクト・ゾーン』にて「共同体を記憶する―ユダヤ/『ジプシー』の文化構築と記憶の媒体」と題する特集を組み、岩谷、左地、黒田、宇田川が論文を発表した。また、2019年3月には岩谷、左地、黒田、宇田川がユダヤ人とロマのホロコーストの記憶の継承に関する最新動向について、ベルリンで共同調査と資料収集を行った。その他、各自が以下の研究を行った。 岩谷は、1990年代以降ルーマニア各地に建築された「ロマ御殿」にみられるロマの帰属意識と移動の記憶について、2018年8月に現地調査を行い、その成果を9月のジプシー伝承学会と2019年2月の現代人類学研究会にて報告した。またベルリン・パリにてホロコースト関連のメモリアルの調査とアーティストへのインタビュー調査を行った。宇田川は、イスラエルで記念碑・国家暦・博物館に関する調査を行い、ホロコーストの記憶がいかに国家の物語として構築されるのか検討し、ベルリン・パリで加害の歴史とユダヤ人共同体の描かれ方に関する現地調査を行った。黒田は、2018年8月にニューヨークのリンカーン・センターでユダヤ音楽関係の資料を収集し、2019年3月にはコメディアンのShane Baker氏を招き、イディッシュ演劇の変遷をテーマに研究集会を催した。左地は、論文発表と研究会発表を行いこれまでの研究成果を整理・公表するとともに、2019年2月から3月にアウシュヴィッツ・ベルリン・パリで、記憶の媒体(モニュメント、アート)に関する現地調査と資料収集を行った。滝口は、音楽をめぐる「想起」という概念について、文化人類学方法論とその課題について検討した。また2019年3月、オーストリアで1週間の予備調査を行い、ロマの民族的アイデンティティを想起する媒体に関する資料・情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、共同研究者各自が共同研究の問題意識にひきつけながらそれぞれのフィールドで問題関心を掘り下げる作業を行っており、初年度である2018年度は共同研究会と学術誌での特集論文の発表を通して、その作業を深めることができた。また理論的な掘り下げのみならず、各自が現地調査と2019年3月にはベルリン・パリで共同調査を行い、ユダヤ人とロマの共同体の想起のあり方に関する最新動向を把握することができた。共同体想起の最前線ともいえるユダヤ人による集団表象は、ベルリンのメモリアルや博物館、イスラエルの国家的記念に見出せるが、そこでは単なる集合的記憶を喚起するにとどまらず、個人の生活史を強調し、表象しえないものを想起の媒体によって喚起するといった新しい方向性が見出せる。一方で、ロマの共同体想起はユダヤ人のそれに比べると分散的であるが、まさに現在、西ヨーロッパを中心に盛り上がりつつあり、他者(eg.ユダヤ人)による共同体想起のあり方や自身の生活変化の影響(移住や定住化)、下位集団による違いも含めてさらなる検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度以降は、想起の対象となる「過去」がもつ時間観の違い(eg.個人のライフヒストリー、第二次世界大戦、神話的世界)、想起が喚起される場の違い、想起される共同体のかたちの違いとそれが人々の生活に与える影響、想起に用いられる媒体の違いが想起対象に及ぼす影響、について、共同研究者各自がさらに現地調査により資料を収集し、検討する。研究会では、その成果をふまえて、想起の媒体の違い(eg.音楽、ファインアート、演劇、建築、モニュメント、博物館)が、いかにロマとユダヤ人とで異なる/共通の共同体表象を生んでいるのか議論し、考察を深める。また、想起することが困難な出来事について検討するために、先行研究の把握と方法論的探究を研究会などを通して行い、想起することが困難な出来事がどのように各自が事例とする共同体で共有されている/いないのか、現地調査によって明らかにする。
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