2018 Fiscal Year Annual Research Report
文化の主体的継承のための民俗誌の構築ーマルチメディアの活用と協働作業を通じて
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18H00789
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
川村 清志 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (20405624)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 順子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (60321543)
岡田 浩樹 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90299058)
柴崎 茂光 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (90345190)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民俗誌 / 協働 / 文化の再構築 / フィールドワーク / コラボレーター / 画像 / 映像 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、文化人類学、社会学などの先行する理論的成果と近年の民俗誌記述の検証から出発した。とりわけ2000年代以後に頻出しているメディアを用いた調査法の実効性の当否を検討するとともに、現地での協働体制で必要とされる研究マニュアルの素案を分担者間で構築してきた。そのうえで本研究が構想している協働の民俗誌に必要な関連諸分野の成果についても検証していく。 また、各フィールドについての基礎的な調査を行った。予算の減額に伴って調査地を勘案し、石川県輪島市門前町と鹿児島県屋久島、宮城県七ヶ浜町を中心に概略的なフィールドワークを行った。門前町には5月から数回の調査を行い、気仙沼と市七ヶ浜町についても、6月以後に複数回の調査を行った。 また、兵庫県明石市と宮城県気仙沼市以外に沖縄県を調査フィールドに据えて予備的な調査を行った。いずれの調査地も、分担研究者の調査経験があり、現地とラポールを結んできた地域である。予備的な調査では、各研究者が現地を訪れ、各々の専門と関心に基づいて多様な文化資源にアクセスしながら、エスノグラフィーに向けての構想を固めることになる。ここでより協働作業が可能な地域を選定し、テーマや表象技法を絞った調査活動に移っていきたいと考える。 設定した調査地の中で、最も長期にわたり調査が継続されている石川県輪島市門前町については、現地との具体的な協働体制のもとにフィールドワークを行い、調査資料の整理とデータベースの構築、協働の民俗誌のモデルの作成に向けての調査研究を遂行した。その成果の一端は、後に見る『輪島市皆月日吉神社山王祭 フォトエスノグラフィー 準備編』に結実している。次年度以後は、ここで用いた画像資料に加えて、映像資料の蓄積とアーカイブ化、編集作業を進めることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の研究計画に基づき、近年の文化人類学、民俗学、社会学における理論的成果と民俗誌記述の検証から出発した。また、これと並行して、これまで長年にわたって調査を継続してきた石川県輪島市門前町において『輪島市皆月日吉神社山王祭 フォトエスノグラフィー 準備編』の作成を行うことができた。このエスノグラフィーは、これまでの蓄積に加えて春から夏に実施した調査に基づいている。 研究代表の川村がこれまで撮影した画像に加えて、祭りの当事者である皆月青年会員たちが撮影した画像も多く含まれている。さらに解説文章については、元皆月青年会長の倉本啓之との共編という形をとり、全体的な協働体制のもとに作成することができた。このような体制づくりと成果発信は、本プロジェクトの雛形の一つとして、他の地域においても随時、行なっていきたいと考える。 次に宮城県七ヶ浜町においては、東日本大震災以後の文化の復興活動に携わってきた人々と共に、震災をこえて継承される生活文化の保全、記録、活用に関する調査・研究を行った。これらは、今後、出版物や映像民族誌の形式の元にまとめていく予定である。同様に同県気仙沼地方でも現地調査を行い、外部からの伝統的な地域文化の調査を仲介する協力者(コラボレーター)の存在が大きいことがわかった。彼らの多くは文化財行政や公民館活動に携わる経験を有している。彼らの中には地域の生活実践を反芻し、口承文芸や年中行事、民俗信仰を地域の「文化」として選出し、記録・保存に向けて活動してきたことが調査を通じて明らかになった。 これと同様の現象が、分担研究者である内田順子と訪れた沖縄県宮古島の調査においても浮かび上がってきた。これらの地域においては、このようなコラボレーターの活動に焦点を当てながら、インタビューや映像記録化を主眼として継続的に調査を行っていくことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、石川県輪島市門前町にて調査を継続し、協働の民俗誌の刊行を目指す。昨年の「準備編」に続き、本年度は「祭日編」を編集し、刊行する予定である。祭りは毎年8月10、11日に行われるため、この期間にインテンシブな現地調査を行い、主に画像資料の収集と祭礼当日のインタビューを行うことになる。ここで得られた資料の選択から編集、刊行の諸過程は、随時、地元青年会役員と検討することになる。また今年度は、輪島市内外において、地元出身者たちの日常の生活文化についても、映像記録化のための調査を行う予定である。 次に今年度は、宮城県気仙沼市と沖縄県宮古島にて、複数回の調査を行い、現地のコラボレーターと民俗誌の構成や形式についてワークショップを開き、予備的な調査を行う予定である。これらの調査では、各々の地域における特徴的な慣習的実践をトピックスとして選出し、それらの歴史的背景や現状についてのインタビューと参与観察を重ねることになる。次にそれらを地域の「文化」として表象してきた現地のコラボレーターの視点を浮き彫りしていく。気仙沼では漁業や年中行事、民俗信仰のなかから、そして宮古島では、ユタを中心とする民俗信仰やパーントゥのような年中行事から、適切なテーマを選出するための概略的な調査を行うことになる。 この宮古島の事例については、すでに調査歴の長い研究分担者の内田順子と、調査過程や撮影の段階から協働作業を行うことになる。これに並行して、研究分担者としては、柴崎が鹿児島県屋久島について、岡田浩樹が同県奄美群島について、各々の研究テーマに加えて現地とのコラボレーターとの関係性をめぐる調査に着手することになる。さらに昨年から引き続き、宮城県七ヶ浜町と兵庫県明石市については、連携研究者との共同調査やワークショップを随時行いながら、調査研究を継続していく予定である。
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