2018 Fiscal Year Annual Research Report
犯罪の訴追・予防を目的とする情報の収集と利用に対する法的規制のあり方
Project/Area Number |
18H00800
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 裕 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (60194130)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 正仁 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授(任期付) (30009831)
酒巻 匡 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50143350)
田中 開 法政大学, 法務研究科, 教授 (10188328)
川出 敏裕 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (80214592)
佐藤 隆之 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (30242069)
池田 公博 京都大学, 法学研究科, 教授 (70302643)
笹倉 宏紀 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (00313057)
稲谷 龍彦 京都大学, 法学研究科, 准教授 (40511986)
成瀬 剛 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (90466730)
川島 享祐 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (90734674)
大谷 祐毅 東北大学, 法学研究科, 准教授 (80707498)
神田 雅憲 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 助教 (50802675)
朝村 太一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 助教 (50823316) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 犯罪訴追 / 犯罪予防 / 情報 / プライバシー / 刑事手続 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,下記の3つの研究班を構成して,調査研究を進めた。 ①犯罪訴追目的での情報の継続的収集班(班長:井上,班員:田中,佐藤,成瀬,神田)は,GPS捜査,民間業者に対する特定の個人に関するデータの保存要請,ドイツのオンライン捜索(対象者が使用するコンピュータ等の端末に秘密裡にソフトウェアをインストールし,一定期間にわたり,端末でのデータ処理の状況を監視する手法),スマートフォン・パソコン内に保存されている大量のデジタルデータの解析を主な研究対象とした。研究内容としては,これらの処分によって侵害される利益の内容は何かということとの関係で,プライバシーの利益の内容を再検討するとともに,それを,既存の強制捜査と任意捜査の区別の枠組みにどのように適合させるのかについて考察した。 ②犯罪訴追目的での情報の蓄積・利用班(班長:酒巻,班員:池田,稻谷,川島)は,指紋やDNA型のデータベース,監視カメラを主な研究対象とした。研究内容としては,個人情報保護法など他の法分野における規律内容も踏まえつつ,そもそも,情報を蓄積し利用することにより,取得とは独立した権利侵害が生じるのか,その内容はいかなるものなのかということを,問題となる情報ごとに検討した。 ③犯罪予防目的での情報の収集・利用班(班長:川出,班員:笹倉,大谷,朝村)は,諸外国の諜報機関(アメリカのCIAやNSA,ドイツの連邦憲法擁護庁等)がテロ行為の未然防止を目的として行っている膨大なデータの収集・蓄積やテロ対策データベースの作成・利用を主な研究対象とした。研究内容としては,これらの手法の具体的な内容を把握するとともに,犯罪の「予防」という目的の相違が法的規制のあり方に与える影響及びその理論的根拠を考察した。 そして,年度末に研究代表者の大澤が主催して全体会合を行い,各研究班が獲得した知見を全員で共有し理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,①犯罪の訴追を目的とした個人情報の大量かつ継続的な収集,②直接には当該犯罪の訴追で利用する以外の目的で収集・蓄積された情報の犯罪訴追目的での利用,③犯罪予防目的での情報の収集・利用の3つを検討対象とし,情報の蓄積・利用がもたらす権利侵害の内実を明らかにするとともに,目的(犯罪訴追,犯罪予防)の相違がもたらす影響をも考慮しながら,これらに対する法的規制の在り方を包括的に検討することである。 今年度の研究成果は,この目的に対して,以下のような意味を持つ。 まず,①犯罪訴追目的での情報の継続的収集については,それによって侵害される利益の内容は何かということとの関係で,プライバシーの利益の内容を再検討するとともに,それを,既存の強制捜査と任意捜査の区別の枠組みにどのように適合させるのかという問題についても解決の方向性を得ることができた。次に,②直接には当該犯罪の訴追で利用する以外の目的で収集・蓄積された情報の犯罪訴追目的での利用については,個人情報保護法など他の法分野における規律内容も踏まえつつ,そもそも,情報を蓄積し利用することにより,取得とは独立した権利侵害が生じるのか,その内容はいかなるものなのかという問題について,緻密に考察することができた。さらに,③犯罪予防目的での情報の収集・利用については,問題となる手法の具体的な内容を把握するとともに,犯罪の「予防」という目的の相違が法的規制のあり方に与える影響及びその理論的根拠について諸外国の立法例から重要な示唆を得ることができた。その上で,年度末に開催された全体会合において,各研究班の知見を研究分担者全員で共有することにより,次年度の海外現地調査に向けた準備を整えることができた。 以上の通り,今年度の研究成果は本研究の目的に対してそれぞれ重要な貢献をするものであるので,上記の自己評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は,昨年度に引き続き,3つの研究班(①犯罪訴追目的での情報の継続的収集研究班,②犯罪訴追目的での情報の蓄積・利用研究班,③犯罪予防目的での情報の収集・利用研究班)を構成して,調査研究を進める。 具体的な研究方法は,以下の通りである。第1に,昨年度に引き続き,各研究班は,外国文献の精読により,これらの問題が盛んに議論されている諸外国において,各手法がどのように用いられているかを明らかにするとともに,それらに対する立法及び判例による規律につき網羅的な検討を行う。第2に,各研究班から一人ずつ選出する形で,アメリカ・ドイツ・イギリス・韓国の4カ国に対する海外調査グループ(一国あたり3名)を構成し,現地調査を実施する。現地調査においては,第1の文献調査で得られた知見を踏まえつつ,各手法の利用実態とそれに対する規律の実情について具体的に把握することを目的として,現地の実務家や研究者に対しインタビューを実施する。 昨年度と同様に,各研究班ないし各海外調査グループによる個別的な研究が中心となるが,研究代表者が,各研究班の進行管理と調整を行うとともに,各海外調査の実施を支援することによって,研究活動全体を総括する。また,研究分担者全員が参加する研究会を数回開催することによって,各研究班・各海外調査グループの得た知見を全員で共有し,各自が問題意識を深められるように工夫する。 最終年度である令和2年度は,まず,前2年間にわたる文献調査・海外現地調査を通じて各研究班・各海外調査グループが得た知見を総合して,①~③の検討対象に対する法的規制の共通点・相違点や相互関係について理論的検討を行う。その上で,情報の蓄積・利用がもたらす権利侵害の内実を明らかにするとともに,目的(犯罪訴追,犯罪予防)の相違がもたらす影響をも考慮しながら,①~③の検討対象に対する法的規制の在り方を包括的に提示する。
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