2018 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル・ガバナンスにおける「ゆらぎ」と秩序形成ー自己組織性の論理を探る
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18H00824
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 高敬 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00247602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 南山大学, 総合政策学部, 教授 (00367640)
西谷 真規子 神戸大学, 国際協力研究科, 准教授 (30302657)
塚田 鉄也 桃山学院大学, 法学部, 准教授 (00551483)
赤星 聖 関西学院大学, 法学部, 准教授 (20795380)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グローバル・ガバナンス / 国際制度 / 自己組織的システム |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の平成30年度は、まず研究対象となる「ゆらぎ」の分析を可能にする統一的な理論枠組みの構築を試みた。その過程で「ゆらぎ」を増幅する自己組織化のメカニズムに関して、すでに先行研究の蓄積がある社会学の自己組織性論を参考に概念化を試みた。 「ゆらぎ」の概念化にあたっては、最初に、多中心化した国際関係における秩序形成・維持を説明する既存の理論であるオーケストレーション論や実験主義的ガバナンス論などを批判的に検討した。その結果、システム優位論ではなく、アクターの主体性を重視するアクター中心的なアプローチを採用した。そして、以下のようなアクターを概念的に想定した。第一に、既存の規範に異議を唱え、「差異化」を図るアクター、すなわち「異議提唱者」が存在し、彼らが「ゆらぎ」を発生させると仮定した。そして、その「ゆらぎ」に同調して、それを増幅するアクター、すなわち「増幅者」の存在を想定し、さらに、その増幅を検知し、自省作用によって既存の規範・知識構造を問い直す「開放的な制度設計者」の存在を仮定した。「異議提唱者」、「増幅者」および「開放的な制度設計者」が相乗的に相互作用することにより、はじめて秩序が「変態」すると仮定し、このプロセスを自己組織化プロセスと定義づけた。昨年度の後半には、この暫定的な分析枠組みを研究チーム内で共有し、その上で、人権、環境、移民、民間航空、腐敗防止の問題領域において「ゆらぎ」現象を特定化する作業を実施した。そして年度末の研究会において、各自が実証研究の成果を報告し、各領域で観察された「ゆらぎ」について理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グローバル・ガバナンスにおける「ゆらぎ」の生成・増幅過程に関して、共通の分析枠組みを概念化することができ、それにより研究チーム内の実証分析が可能になったからである。昨年12月7日に開催した第2回の研究会では、分析枠組みの早期構築をめざし、社会学の分野で独自の自己組織性論を展開してきた今田高俊氏を講師に招き、社会学分野における「ゆらぎ」研究の現状および「ゆらぎ」概念の政治学への応用可能性について講演していただいた。 研究代表者は、この社会学での研究を踏まえて、グローバルな秩序変化を「異議提唱者」、「増幅者」および「開放的な制度設計者」が相互作用して作り出す「ゆらぎ」の結果と捉えることを提唱し、その概念枠組みを本研究の分担者と共有した。それを受けて、研究代表者および各分担者は、各々の対象領域において、社会的価値の変化と、それに伴うアスピレーションの表出があったかどうか、どのようなアクターがその担い手となったのか、そして既存の規範構造の守護者は、そのような「ゆらぎ」をどのように検知して、既存の規範・知識構造を問い直す自省作用につなげたのかを、人権と企業、難民保護、移民、民間航空、および腐敗防止の問題領域でそれぞれ検討した。このうち、民間航空の領域では、大きな「ゆらぎ」は検出されなかったが、引き続き分析を行うこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、それぞれの問題領域でより詳細な分析を実施する予定である。とりわけ「ゆらぎ」を創出し、増幅するアクターに注目し、これらのアクターが既存制度を主導するアクターの自省作用をどのように引き出したかを、以下の問いを中心に、具体的に分析する。分析方法としては、第1次資料のドキュメント解析および関係者へのインタビューを実施する。 1. 「ゆらぎ」を生じさせているアクターは、現行のグローバル・ガバナンスに対してどのような不満を表明しているのか。 2. これらのアクターは、何をどのように変えようとしているのか。 3. これらのアクターを支持する他のアクターは、どのような動機から、これらのアクターに共鳴しているのか。 4. 既存の制度を運営する守護者は、これらのアクターとどのような関係性(対立、容認、協働)を構築しようとしたのか。 5. その結果、グローバルな秩序は、どのように「変態」したのか、あるいはしなかったのか。 人権と企業(代表者山田担当)に関しては、ソフトローからハードローへの転換を求めているNGOに、難民保護(赤星担当)に関しては、法的保護から人道支援への転換を求める途上国政府に、移民(塚田担当)に関しては、移民家族の呼び寄せを認める政策への転換を求めた欧州人権裁判所に、そして腐敗防止(西谷担当)に関しては、司法の廉潔性原則の拡散を可能にした司法当局者のネットワークに、それぞれ注目して、上記の分析を行う。
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Research Products
(6 results)